複雑・ファジー小説

Re: 【第一章完結!】聖使徒サイモンの巡礼【キャラ絵うp2!!】 ( No.53 )
日時: 2012/06/07 19:07
名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)
参照: http://www.kakiko.info/oekaki_bbs/bbsnote.cgi?fc

AFTER

「いらっしゃいませ!」
太陽の光がさんさんと差し込む店内に、明るい声が響く。

「あらアリシアちゃん元気そうで良かったわ。薔薇を12本包んでもらえないかしら」
「はい、しばらくお待ちください」
きりりと縛ったポニーテールに清潔そうな淡いピンク色のエプロン。客に好印象を与えるその笑顔を活かし、アリシア=デュークは今日も一生懸命働いていた。

デーテモが居なくなったため貢物代が浮く。
経済的な余裕が生まれた彼女は元々そこまで好いていなかった酒場でのあるバイトを辞めて亡き兄が残した教会裏の花壇の花を使い、個人営業の花屋を始めたのだ。
こじんまりとした良い店だ。客こそ少ないが毎日の生活に余暇が生まれる。
小鳥達にパンくずをあげたり、花に水をやったり。ちょっとした幸福を見つけるという日課をつければ、今までの世界とは何かが違って見えてきた。
「薔薇12本、御代は300セントです」
「いつもありがとう。じゃ、また来るわ」

本当はあの空き教会に居を構えるつもりだったのだ。しかし教会は十三聖使徒教団に所属していなければ管理できないらしい。
「十三聖使徒……、ねぇ」

思い出される少年の顔。ユダ=サイモンだ。
後ろ向きで過去に捉われていた内向的な自分を解き放ち、外の世界を教えてくれた命の恩人。
そして私の————。

『過去を振り返るな! お前は兄を愛して、でももう愛せないところにいることを認めるんだ! 兄よりも重要な存在を見つけろ! 兄より愛せる存在を探し出せ!』

兄より愛せる存在。
私は兄に恋をしていたわけではなかった。

愛しくて愛しくて。そんな存在を今持っているわけではない。でも。
誰よりも失いたくない人なら知ってるよ。

私の思いは届かずに消えた。
でもあの笑顔は鮮明に残っている。


「前を向いてーー、教団に入ろう」


一人の少女は決意した。

そんな麗らかなとある初夏の日。