複雑・ファジー小説
- Re: 【2話更新!】聖使徒サイモンの巡礼【参照400突破!!】 ( No.68 )
- 日時: 2012/06/26 18:14
- 名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)
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サクサク、と大地を踏みしめる四人分の足音。後方から小さな悲鳴が聞こえる。
夜の森は足元が見えづらい上に木の根などが出ていてとても歩きにくい為、比較的抜けている神田が転んでしまうのは当たり前だろう。
「すみません……足を捻ってしまったようです」
「今治すわ、見せて」
革のブーツの紐をとき患部を晒す。懐中電灯で照らされた彼の白い足首は見事に赤く腫れ上がっていた。
「一番酷い転び方したようね……」
ミシェルは十三聖使徒の中で唯一、多大な治癒魔法を使うことができる。他の者も止血程度ならできるようだが医学をかじっていないため、実質的な治療はすべて彼女に回ってくるのだ。
「あ、提案があるのだが……」
バルトが手を上げる。先程から執拗に襲ってくる野生のオオカミ達とバトルを終えたばかりのせいか、その顔には色濃く疲労が残っていた。
「此処は野生動物の棲み家でとても危険だ。取り敢えず治療は後にして一刻でも早く森を抜けるのが先決。真っ直ぐいけば先程ファストが言っていた町があるのだろう。神田、そこまで待ってくれないか?」
「はい、勿論」
眉をひそめるミシェルに、心配ないと笑顔を見せ神田は再び立ち上がる。
時計を見れば既に7時を過ぎていた。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。ブロンドの髪をそっと払い彼女はため息をつく。
悪いのは全部彼奴なのだ。
事態は二時間前に遡る。
「わざわざ大回りのルート通んなくても良くね?」
「どういうことだ?」
ファストが地図を持ち自慢げに指差した。
「ほら、わざわざ五日もかけて山脈回らなくてもさ。ここの森抜けてアラド地区で一泊すれば二日でオーランド入れるんだぜ」
オーランドというのは神聖エルサレム帝国の中心に位置する州のことである。そこに聖使徒達が目指す教団本部があるのだ。
「確かに近いのですが……我が国の富士の山の近くにも樹海と呼ばれる森がありまして、公式ルートから外れると二度と出てこれないという有名な自殺スポットなのですよ。絶対やめた方がいいですって」
止めようとする神田に対しファストは胸を逸らし言う。
「俺がいるから大丈夫!」