複雑・ファジー小説

Re: 【2話更新!】聖使徒サイモンの巡礼【参照400突破!!】 ( No.69 )
日時: 2012/06/26 18:13
名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)



「痛っ……」
神田が顔を顰めた。やはり怪我した足に相当な負担がかかっているのだろう。
「やっぱり今治した方がいいって……」
「前言は撤回する。オオカミが出たらまた俺が倒すから、少し休んだ方がいい」
「いえ……大丈夫です」
そうは言うが彼の顔には冷たい汗が滲み、顔は苦悶に歪んでいる。

「オイ」
ファストが突如神田の腕をとった。
「負ぶってやる。来い」
「なっ……平気ですって。貴方小っちゃいんだから潰れちゃいますよ」
「大丈夫。身長差たったの13センチじゃん。……それにこれは留架の忠告聞かなかった俺が悪いし」
これは彼なりの謝罪の意の表明なのだろう。照れ隠しで態々後ろを向いて喋るファスト。これでも仲間思いのところはあるのだ。
「そんな……気にしてないですよ」
「いいから神田、早く乗ってやれ」
バルトに急かされ、細い体躯をそっとファストにかさねる。
「よし、行くか」
再び夜道を歩き始めた。

「なんか男二人がおんぶって……意外と恥ずかしいな」
「同行してる私たちの方が恥ずかしいわよ、ねぇバルト君」
「全面的に同意する」
「…………」
「…………」
そんな無駄な会話を連ねていた時だった。
急に薄靄い霧が晴れ何かが目の前に現れる、いや聳え立っている。
「これは……城門?」
アラド地区入口と書かれた立て札の後ろに巨大な塀が中と外を遮っていた。門が開く様子は無く、そばに人もいない。

「自分で入れということなのか。それだったら……」
バルトが門に大きな手のひらを当てる。
「……ぅうらぁああああああああああああああああああっ!!」
「無茶しすぎだよっ!」
ギシギシと軋む門の金具。長年開かれていないことをあらわしている。町民達は外界に頼らず町の中だけで全てを補っているということか。サウスト州は差別の激しい未発達の場所だと聞いていたがアラド州だけは別なのか。
思考を暫し巡らせた神田の耳に、歓喜の声が届く。
「やったぁ開いた!」
「さすが怪力バルトだな」

「……っていうか」
町内は、殺風景であった。
どんよりとした曇り空。荒れ果てた畑。神田は皆に先程考えたことを話す。
「こんな町じゃ自給自足は出来ませんよ」
四人は呆然と、生気のないその町を見つめた。