複雑・ファジー小説
- Re: 【プロローグ更新!】聖使徒サイモンの巡礼【お客様2名来訪!】 ( No.7 )
- 日時: 2012/04/30 18:18
- 名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
第一章 聖使徒サイモンの巡礼
1
「……あっちィ……」
肩まで伸びた金髪から一筋の汗が滴り落ちる。
ナザレの別称は太陽の町。市場は人々の熱気で溢れ子ども達が道を駆け回る明るく活気付いた良いところなのだが、平均気温が35度を超す乾燥地帯であるという大きな欠点があった。
涼しげな格好のものが多い中その少年の出で立ちはとても奇抜である。分厚い生地の黒いコートに同色のゴツいブーツ。片目を覆うプラチナブロンドの髪やコートのフードから覗く肌は透けるように白く日に焼けた小麦色の肌を持つこの町の人々にとってはとても珍しい。
「あの子変わってるわねぇ……」
「でも良いヤツっぽいよ! 転んだ子のこと助けてたし」
そうして変わった来訪者は好意的に迎えられたのだ。
◆◇
少女・アリシアの勤め先が酒場と言うのを聞くと多くの人が驚くのだが、給料が高い上に昼間から開店している為客の柄もそこまで悪いわけではない。一人身の女性が働くにはピッタリの場所なのだ。
仕事内容は客の相手と食材の買出し。今日も彼女は自身の頭ほどもある紙袋を抱え地下の酒場へと繋がる暗い階段を静々と下りていった。
酒場の入り口である重い木扉を開けるのにはいつも苦労する。女性の細い腕一本ではこの扉は支えられない。
「あ、でもあの人は別か……」
心は乙女を自称する酒場のニューハーフ店長の毛深い腕を想像してしまい、漏れ出す嗚咽を抑える事ができなかった。
『がっはっは!!』
響くけたたましい笑い声。
「…………ん?」
もたれかけた扉から漏れてくる大声はどう聞いても声変わり前の幼い少年のものである。
『おっちゃん酒とパエリアおかわりーっ!』
『おっちゃんじゃないわ! お姉さんとお呼び!』
「……お酒??」
確か法律で未成年の飲酒は禁じられているはずだ。しかもこの声どこかで聞いたような……。
足を使って勢い良く扉を蹴破る。
「あ」
真っ先に目に入ったのは夥しいほどの数の皿に囲まれた少年だ。
分厚い黒コートに雪のように白い肌。
今はフードを被っていないため、金色の光を放つ瞳と同色の長髪が外気に晒されていた。
鋭い目線が自分のことを捉えれば、にまりと綻ぶ彼の両頬。かなり酔っていることが一目見て分かる。
「よォ、さっきの姉ちゃんじゃねーか。無事で良かったなーっ!」
巨大なビールグラスを片手に、少年は快活そうに笑った。