複雑・ファジー小説

Re: 【記念対談更新!】聖使徒サイモンの巡礼【参照500突破!!】 ( No.72 )
日時: 2012/07/03 08:47
名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)



がらんとした風景。曇った灰色の空。雑草が生えに生えきった畑。そこに人々が生活している様子はない。
「おっかしーな、此処こんな土地だっけ? そもそもこんなでかい城門なかったような」
ミシェルはファストの手から地図を抜き取り、細部まで良く調べ始める。
「あ………」
掌からはらりと紙が零れた。彼女はそのまま何歩が後退すると、力尽きたようにへたへたと地面に座り込む。
「バカファスト! 地図の左隅良く見て見なさい」
剣幕に押され男衆三人は地に置かれたそれの周りに群がった。古ぼけ黄ばんだ地図の隅。記されていたのは書かれた年である。
「うわ……実に20年前」
「地形や村の様子が変わってしまった可能性は存分にあるじゃないか」
「…………悪りィ」
普段なかなか謝らないファストもこれには衝撃を受けたようだ。

「も〜! 怪我人もいるっていうのに今晩どこに泊まるっていうのよ! 野宿ですか? それとも野宿ですか?」
「ちょ、ティアさん落ち着いて」
「これが落ち着いてられるかーっ!」
大声でひとしきり怒鳴り、ミシェルは不機嫌そうにその場に座り込んでしまう。この状態になってしまったミシェルはもう使い物にならないのだ。神田とバルトに思い切り睨まれファストはため息を付いた。
(さて……どうしたものか)

「あのー、」

後ろから肩を叩かれる。
鈴のような、そう、幼い少年の声色だ。

「泊まるとこ無いなら……僕の家、来ますか?」

ぼさぼさとした茶色の髪。タンクトップに半ズボンという質素な出で立ち。
「お前……この町の住人なのか?」
「はい」
髪と同色の澄んだ瞳は嘘をついている様には見えない。
「お兄さんたち、外からきたんですよね?」
「そうですけど……」
少年に気づいた神田が答える。
「やったーーー!」
少年はいきなり飛び上がり全身で喜びを表した。目を輝かせ、勢い良くファストの詰め寄る。
「僕、キドっていいます! 外の世界について教えてください、僕すごく憧れてたんです!」
こちらの返事も聞かず、キド少年は嬉しそうに走り出した。
「こっち、ついて来てください! 案内しますから!」
これで当面の寝床は確保されたぜ……!
ファストは内心ほくそ笑んだ。

◆◇

「うわーっ! すごーい」
ミシェルが歓声を上げた。なにしろ卓上には望んでやまなかった、湯気を立てた温かいスープに、硬くないパン。賞味期限のきれてないチーズなど素晴らしいご馳走が並んでいるのだから。
聖使徒は基本金持ちであるためこのような食材なら簡単に手に入るのだが、生憎状況が違う。金があっても店がないのだ。故、森中を何も食べずに歩き回っていた四人にとってそれはなによりもありがたいものだった。

「コーンスープ、お代わりあるから幾らでも食べて頂戴ね」
「いいんですかじゃあ頂きます」
「少しは自重しろよ他所様の家庭だぞ」
言葉を交わす客人たちに、キドの姉は暖かな笑みを浮かべる。

そう、此処はキドの家。事情を聞いた彼の家族は、嫌じゃないなら好きなだけ泊まっていっても良いと聖使徒たちを受け入れてくれたのだ。

「ウチ、今両親が居ないから…………」
そう寂しげに微笑む姉、アニタの気持ちを知ってか知らずか。いや気づいているのであろう。
彼らは何かを盛り上げようと、アルコールも無い中楽しげに騒いだ。