複雑・ファジー小説

Re: 【二章更新中!】聖使徒サイモンの巡礼【オリpv作成なう!!】 ( No.84 )
日時: 2012/07/20 13:26
名前: 茜崎あんず (ID: 92VmeC1z)



「此処は何処だ!?」
声が響いた。家具を大きく揺らし、先ほど鉄の鎧に身を包みミシェルを襲った茶髪の少年は体を起こした。白い布地からはみ出る細い手足、艶やかな瞳。それが一層彼を幼く見せている。
「…………っ!」
硝子が割れ、破片が転がった。水をいれたグラスを持ち駆け寄ったサイモンを突き飛ばしたのだ。

「落ち着いてラドル! ……キドに聞こえるでしょ」
「チッ…………」
必死の表情で止めに入ったアニタにほだされたのであろうか。ラドルと呼ばれた少年は振り上げた腕を悔しげに降ろす。

「お前らは何故、俺たちを襲ったんだ? 」
「教えるかよ! てめぇみたいな金持ちに俺らの苦しみが分かってたまるか!」
質問をしたバルトを敵意を込めて睨み威嚇する少年。如何にこの町がゆがんでいるのかが伝わってきて。

自分らと変わらぬ年齢の少女は親がいない苦しみを笑顔で語る。少年は豪奢な鎧を身に纏い、重たい腕を振り上げ見知らぬ者に毒を向けた。外の世界が知りたいと底抜けた笑顔で話すあの幼子も、いつしか怒りの眼差しで誰かを見据えて生きて行くのであろう。
この連鎖を止めたい。ミシェルはそっと目を伏せる。

「貴方たちのこと、聞かせて」
口を開いたのはサイモンだった。全身にかぶった水を手で払い、身を寄せ合う二人を見つめる。
「苦しみを知らずのうのうと日々を送る僕らはさぞかし憎いことでしょう。だから、力になりたいんだ」

驚きで目を丸くするラドル達に、彼は続ける。

「貴方達が何かを守るために必死になってることくらいわかります。そして貴方達が優しい心の持ち主だということも。例えばアニタさん、貴女は切り詰めた貧しい暮らしの中、旅の僕らにたくさんの食事を振舞ってくれた。それは泊めた旅人を殺さなければならないことへの罪悪感だ。そしてラドルさん、僕が貴方を止めることが出来たのはその気配から滲む鼓動のせい。押し倒した体勢からの腕の運びのスムーズさから貴方はこの行為に関して手慣れていることが分かりましたが、窓のしたの植え込みに隠れている間貴方の動悸は早かった。恐ろしかったのでしょう、何度も人を殺め、任務をこなしてしまう自分が」
「…………!」

息もつかずに述べ上げたサイモン。戦闘力は解放時に対しては劣ってしまうのだが、こういう事態への頭の回転他人への対応能力。流石だ。
ミシェルはふぅと息をついた。