複雑・ファジー小説
- かみさま世界(no.4) ( No.10 )
- 日時: 2012/05/03 09:29
- 名前: 六花 (ID: jX/c7tjl)
12年前、結はおじいさんに拾われた。
その時、彼女は、森の中に倒れていた。行き倒れるには、少々きれいすぎる衣服を身にまとっており、肌は、白く透き通るようであったという。
それよりも驚いたのは、おまえが草木に守られているように見えたことかな、とおじいさんは冗談半分でそう言っていた。
偶然おじいさんが結を見つけたのだ。それがなかったら、きっといま結は生きてはいないだろう。
もし、それがかみさまの采配だとしたら。
彼女がそれ以前の記憶を失っていたことも、かみさまがしたことなのだろうか。
今もまだ思い出せないその記憶には、いったい何があるのだろう。
「結?」
心配げなおじいさんの声で、現実に引き戻される。あぁ、そうだ。今は大祓祭のための札を書いていたんだ。
同時に、激しい痛みに襲われる。
苦痛に顔をゆがめそうになったが、無理に笑顔をつくって。
「ごめん、少し考え事をしてて。残りは、わたしが…ッ!?」
そういって、札をとろうとすると、突然視界がぐるりと回った。
倒れたのだ、と気が付くまで少しの時間を要した。
「…あ…」
「結ちゃん!?」
おばあさんがひきつれたような声を上げ、結を抱きかかえる。
体中を襲う絶え間ない痛みが、少しだけ和らいだような気がした。
「やっぱり無理をしていたんだね…。ほら、熱もあるじゃないか」
「大丈夫だよ…」
「大丈夫なんかじゃないだろう?今日はもうおやすみ。…歩けるかい?」
もう何を言ってもだめだと感じとり、結は小さくうなずき、立ち上がる。
______________________心配を、かけてしまった。
身元もわからないわたしを、拾い育ててくれた、おじいさんとおばあさんに。
ただでさえ迷惑をかけている身で、それはならないと、思っていたのに。
半ば気絶状態でベッドに倒れこむ。
息を吐き出した瞬間、張り詰めていたものが切れ、意識が、途絶えた。