複雑・ファジー小説
- Re: 記憶のカケラ 【第3章更新中】 ( No.103 )
- 日時: 2012/07/21 15:07
- 名前: 雷羅 (ID: .r7VG6cg)
「知っての通り、僕らは情報屋だよ。情報を集め、情報を売る。——もちろんタダじゃない。情報を売る代わりに、代償を貰う」
「代償…お金か」
ライラの言葉に笑みを浮べる。
「うぅん。ちょっと、おしいなぁ」
ぎしりと、椅子に体を沈める。
「じゃあ、何を貰うんだ」
無表情に問うその姿に、思わず笑いが零れる。
本当に、伝説通りだと。
「僕らは情報屋だ、理不尽な事は要求しないさ。——代償は売った情報と対等な情報を貰う。唯それだけだよ。———ルーア君は優秀な魔法使いだけどもね。いくら優秀とはいえ、限界がある。……そうやって、僕らの商売は成り立っているんだよ」
「対等な情報…か」
体を前に乗り出し、片腕で頬杖をつく。
「そう。———最高なる情報には、最高なる情報を。小さな情報には、小さな情をね。———だけども、情報は扱う人間によって、価値が変わる。例えば…ライラ君、君が『闇使い』だと言う事。それはこの世界の者からしたら、最高なる情報だ」
「…っ」
フレアが小さく息を呑んだ。
その顔は、激しく歪んでいる。
「だけど、フレア君みたいにこの世界に興味が無い人には、どうでもいい情報だろうね」
ニコリと笑顔を向ける。
「あぁ…」
フレアは小さく頷いた。
だが、その顔はまだ歪んでいる。
———コン、コンコン
控えめに扉を叩く音が響いた。
「はい。どうぞ?」
扉が小さく開き、ルーアが部屋に入ってきた。
「バラス、用意しましたが。…そちらはどうですか?」
その手には数冊の本がある。
「うん。相変わらず、いいタイミングだね。こっちも丁度終ったよ。——…ありがとう」
ルーアから数冊の本を受け取る。
ぎしりと椅子に体を沈め、二人に向き直る。
「さて、ご希望通り『闇使い』の情報をお教えしようじゃないか」
「あぁ」
「……」
ライラは頷いた。
それとは裏腹に、フレアはしかめっ面で黙っている。
「『闇使い』は世界最高なるモノと呼ばれている。なぜなら、人の血を飲む事で『不老不死』となり、強力な魔力を手に入れる。———さらに普通の魔法使い、あるいは『闇使い』と同じ位の強力な魔力を持っている魔法使いでもだね。この世界の誰一人として使えない魔法を使うからだよ」
「———さっきの幻術の事か」
「はい。それ以外にも、人の心を操る魔法、人を飲み込む魔法などがあります。『闇使い』はどちらかと言えば攻撃魔法なのですが、肉体的な攻撃をする他の属性とは違い、精神的な攻撃です。……こういう事は余り言いたくないのですが、そう言うところも世界最高なるモノと言われる原因でしょう」
ライラの質問に、ルーアが答える。
嫌がるように顔を顰めながら、最後の言葉をはきだした。
「それから、人の血を飲み『不老不死』となるって言ったけどね。正確には『飲む』より、『飲み干す』かな。『闇使い』が『不老不死』になる為には、1人の人間の血を全て飲み干さないといけない。——…一滴も残さず、にね」
頬杖をつき、ライラを見つめる。
辺りが沈黙で包まれた。
ライラもフレアも、誰一人として口を硬く結んでいる。
しばらくの間、沈黙は続いた。
すると、ライラがゆっくりと口を開けた。
機械のような感情の無い声が聞こえてきた。
「私の記憶と、感情が無いのはその事と何か、関係があるのか」
ライラの問いに、にやりと笑みが零れる。
ライラはまっすぐと、僕を見ている。
僕の答えを静かに、待っている。
「あるよ」
答えをゆっくり、淡々と僕は話していく。
「さっき、言ったように『闇使い』は人の血を飲むことで、強力な魔力と『不老不死』の力を手に入れる。それと引き換えに、記憶と感情を失う。……世界はそんな簡単なものじゃないからね。いかなる時も、代償は必要なんだよ」
「私の記憶は…感情は…何処にある」
「…肉体から離れた記憶は、アルディとなり聖なる場所に封印される」
椅子から立ち上がり、ライラの目の前まで歩いていく。
ライラの前で立ち止まる。
「記憶は君の中に。ライラ君の奥深くに、封印されているはずだよ」
しゃがみ込み、ライラの胸辺りを指す。
「私の…中」
小さく呟き、ライラは胸を押さえた。
「…アルディとは、普通は形の無いもの。そうですね……例えば、記憶や感情のような物でしょうか。そのような物が、強力な魔力と想いで実体化した物のことです。——この言い伝えが正しければ、ライラさんの記憶がアルディとなり、何処かに封印されたいるでしょう」
残念ながら、その聖なる場所が何処だかは分かりませんが。
ルーアが眼鏡を指で押し上げ、淡々と補足していく。
「記憶を取り戻すためには、どうしたらいい」
ライラはあくまで、感情の無い声で言う。
「封印をとかないといけねぇんだ…」
その問いに答えたのは、今まで黙っていたフレアだった。
複雑な顔をして、小さな声で先を続ける。
「封印を解くには、喜怒哀楽の感情と……人を愛す気持ちが必要なんだ。———その5つのものがアルディとなる事が出来たら……封印は解かれ、記憶も戻ってくる」
「おや、意外だね。まさかフレア君が話すとは…。このまま黙っておくかと思ったよ」
へにゃりと、気の抜ける笑顔で言う。
「……」
怒鳴られるかと思ったが、フレアは一度こちらを睨みそのまま何も言わず、目を逸らした。