複雑・ファジー小説
- Re: 記憶のカケラ 【第3章更新中】 ( No.109 )
- 日時: 2012/08/13 22:39
- 名前: 雷羅 (ID: J0KoWDkF)
- 参照: 久しぶりの更新だ………
「どういうことだ、フレア。お前は何も知らなかったんじゃ無いのか」
「あ、その……。えっと…だな」
淡々と無表情でライラは詰め寄ってくる。
思わず俺は、口ごもってしまう。
俺は今、何故かライラの質問に答えられないでいた。
答えはあるはずなのに、たった一言言えばいいはずだった。
だが、答えたならきっと、俺はライラと一緒に居られなくなる。
それが俺には、分かっていた。
——それを俺は心の奥深くで、拒絶していた。
さっき会ったばかりのライラに。
ライラにだけは、嫌われたくなかった。
この気持ちが何なのか。
俺には分からなかった。
「それは当然だよ。ライラ君」
バラスの声で我に返った。
宝物を愛でるような笑みが、バラスの顔を彩っている。
バラスが言おうとしているのは、きっと——…。
だめだ。
言えば、俺はライラに…っ。
「なにせ、フレア君はね——…」
———ズガアァァッ!!
バラスの顔ギリギリの壁に拳を埋め込む。
冷や汗がバラスの頬を伝い、パラパラと壁から破片が落ちる。
「それ以上、言うな。言ったら、殺す」
極限まで殺意を込め、バラスを睨む。
そして、我ながら低いと思う声で言葉を吐き出す。
それでも。
それでもバラスは、へにゃりと笑った。
「わかったよ。これは、フレア君のことだしね」
だが、いきなり声色を変えた。
「………1つだけ、忠告しておくよ。どんな秘密もいつかは、きっとバレる。それならば自分で伝えるべきだと。そう、思わないかい?人
に教えられるという事は、信用されていないと言われている事と同じことだからね。フレア君、君———…」
何を考えているか、分からない顔で言葉を続ける。
「——————その事は、君が一番分かっているだろう?」
ね?と無邪気に笑う。
これだから、この男は嫌いだった。
いつもへらへらしているくせに、時々全てを見透かしているような事を言う。
そのくせに、重要な事は言わないのだ。
俺を見て反応を楽しんでいる。
昔から、初めて会ったときから。
コイツはこんな男だ。
「………………チッ」
舌打ちを吐き出し、壁から手を退ける。
「ライラ、帰るぞ」
振り返り、顔を向けずにライラに声をかける。
「…ああ」
「あれぇ?もう、帰るのかい?」
「どうせ、もう何も教える気はねぇだろ」
「はっははははっ!!」
顔を背け、答えるとバラスは何故か笑い出した。
まったく意味が分からない。
「ほんっとに、君は面白いねぇ〜。あっ、別に喧嘩を売っている訳じゃないからねっ!……っと、そうだ」
ゴソゴソと机の引き出しを探り、何かを見つけたようだ。
「ライラ君。これあげるよ」
その何かをライラに向かって投げた。
ライラはそれを無言で受け取り、まじまじと見つめる。
「……これは、何だ」
「何って、ピアスだよ。しかも、唯のピアスじゃない。————魔力制御装置だよ。これを着けておけば魔力は勿論抑えられるし、さっき
みたいに無意識のうちに幻術に掛かることは無いと思うよ。まぁ、魔力が抑えられると言っても、ライラ君の魔力は強いからね。全てが抑
えられる訳じゃないけど、しないよりはマシだからね」
眼鏡を掛け直し、ニコリとバラスは笑った。
ライラの手の上で片方しかないピアスは黒く輝いている。
漆黒の光を放つそれを、ライラは無言で眺めている。
「…………………何でそこまでする?」
この男がここまでする理由が分からない。
「言っただろう?貰った情報と対等な情報を渡すって。…………それに、これでも僕は君の事を気に入っているんだよ?単なる気まぐれでもあるけれどね」
しばらく俺とバラスのにらみ合いが続いた。
「ライラ帰るぞ」
今度こそ背を向ける。
「ちょっと、待ってくれ」
声をかけるとライラは立ち止まった。
手に持っていたピアスを中にかかげた。
そして、透き通る髪を耳にかけるとピアスを右耳に着けた。
バラスらの方を向き直って、言った。
「バラス、ルーア。ありがとう。またな」
この言葉にバラスとルーア、勿論俺も驚いた。
あまりの驚きに無言になる。
ライラはそのまま扉の前まで歩いていく。
扉に手を掛け、振り向いた。
「………フレア、帰らないのか」
「えっ、あっ、ああ。……そう、だな」
ライラは俺を見上げる。
扉を開け、外に出ようとした。
だが、ライラが扉を開ける前に扉が開いた。
「ライラッ、前っ」
その扉から出てきた人物とライラはぶつかった。
「………」
「………っ」
「ちょっ、だいじょーぶ?」
ライラとぶつかったのは、一見少女に見える幼い小さな少年だった。
その後ろから、猫の獣人の少女が現れる。
どこかで見た事のある少年と少女だ。
コイツらはライラに会わしてはいけない。
「ライラ大丈夫か?」
「ああ、私は何とも無いが…」
ライラは後ろにいた俺にぶつかり、小さな少年は尻餅をついた。
「……いた。………………ゴメン…………………だいじょう……」
小さな少年は小さく呟き、顔を上げたが何故か言葉を失った。
その目は見開かれていて、ライラを強く見詰めている。
「大丈夫か……。すまなかった」
ライラは軽くしゃがみ込み、小さな少年に手を差し出した。
「…………………っえ…………………うん……こっちも……ゴメン……………」
差し出された手をその小さな少年は、少し戸惑いながらライラの手を受け取る。
そのとき、何故か嫌な気がした。
ライラに誰かが触れるのが、堪らなく嫌だった。
出来る事なら、ライラを誰も居ない、誰にも邪魔されないところに連れ去りたかった。
「じゃあな。本当にすまなかった」
「………気にしないで………僕の方も……………悪かったから」
ライラは扉の向こうに姿を消した。
小さな少年を睨みながら、ライラの後を追い暗みに姿を消した。
その少年と少女の正体を、俺はすぐさま思い出すべきだったのだ。
そうしたら俺は、ライラを守る事が出来たはずなのに。
俺は—————————………
また、繰り返す。