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複雑・ファジー小説
- Re: 記憶のカケラ 【参照600突破!!】 ( No.132 )
- 日時: 2012/09/08 23:19
- 名前: 雷羅 (ID: J0KoWDkF)
『私』はぺたりと座り込んでいた。
虚空を見つめ、静かに涙を流している。
『私』は泣いているのだろうか。
今の私には、感情は無い。
だから泣く事も無い。
それならば、この『私』は何故泣いているのだろう。
私には何一つとしても分からない。
そんな事を考えていた時だった。
———パアァンッ!!!
甲高い破裂音が後ろから聞こえた。
後ろを振り返ると、先ほどの3人の姿は無かった。
その代わり、暗闇の向こうから1人の男が現れた。
長身で赤髪の20代の男だ。
静かに足音を響かせながら、何かがひらひらと舞う中を歩いてくる。
彼は、険しい顔をしていた。
とても懐かしい気がする。
長い間、待ちわびていた気がする。
その男は私が見えていないかのように、私の横を通り過ぎていく。
『私』の涙は、止まっていた。
『私』の顔に驚きと、恐怖の表情が浮かぶ。
だがそれはすぐに、消えて、笑顔に変わった。
彼にも同じように小さな——ほんとに僅かだが、口元が緩む。
彼がゆっくりと手を差し出した。
『私』は嬉しそうに涙を流しながら、手を掴もうとする。
突然、男の手が赤く染まった。
手だけだ無く、服も、全てが血の色で染まる。
男は足元から崩れ落ちた。
『私』の顔が、絶望と恐怖になる。
彼に駆け寄り、その小さな手で必死に彼を抱き締める。
『 !!!!!』
何かを必死に訴えている。
私には何も聞こえない。
私には何も出来ない。
『私』は私が、
とても、とても————…
少しずつ、意識が遠のいていく。
『うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』
『私』の絶叫だけが聞こえる。
私は、何かを思った。
けれど、それが何なのか分からないまま、私は意識を手放した。
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