複雑・ファジー小説

Re: 不器用な天使 ( No.1 )
日時: 2012/05/10 12:55
名前: 風弦 (ID: 1VSk00VJ)
参照: http://hugen.web.fc2.com/tensitop.html

─プロローグ─ 

 目の前に広がる光景は直視できないほどのものだった。
 自身の前に立ちはだかるものは、黒く大きな身体をして頭には大きな鋭い角が二本生えている。その姿はまるで鬼のよう──いや、むしろ悪魔のようである。
 ここは、見慣れた公園のはずだった。子供が遊ぶ遊具やベンチ、緑の木々に囲まれた平和な場所のはずだったが、この悪魔のせいなのか辺りは暗くなり、視界が悪い。
 周囲には人が倒れている。身体に穴が空き、真っ赤な血を流して苦しむ者もいれば?に意識がなく微動だにしない者、何が起こっているのか呆然としている者、恐怖に打ち震える者。
 悪魔は赤い目をギラリと輝かせて少女を見下ろした。
 足が竦み、その場から逃げ出すこともできなくなっていた。

(ここで死ぬ?)

 そうとしか思えなかった。恐らく自分はこの悪魔に殺されてしまうのだと。
 悪魔は明らかに悪意を持ってこの場に現れた。現れたその瞬間、鋭い爪を振り下ろし誰かの身体を切り裂き、この光景を作り上げた。
 彼女は目を閉じた。

(こんな所で死ぬなんて)

 もちろん死にたくなどなかった。
 ただ、逃げる術がない。
 悪魔は太い腕を高々と振り上げ、振り下ろす。
 しかし、その攻撃は彼女には届かなかった。
 悪魔の爪を受けたのは銀色に輝く刀である。その刀を構えていたのは、刀と同じ銀色の髪の青年。
 
「やはりか、油断していた」

 彼は悪魔の腕を振り払うと即座に後退し、距離を置いた。
 そして少女の方に目を向ける。

「もう待ってる時間はない、力を貸してくれ!」
「力?」