複雑・ファジー小説
- Re: 不器用な天使【二話目+イラスト追加】 ( No.4 )
- 日時: 2012/05/11 19:49
- 名前: 風弦 (ID: 8PS445C3)
- 参照: http://hugen.web.fc2.com/tensitop.html
第三章 天使には他のタイプがいた 【前編】
屋上には明るい太陽の光が降り注ぎ、コンクリートを焦がしそうなほどであった。
暑さもあったが、やわらかな風が気持ち良い。
ユナはフェンスにもたれかかり、今だ小さくなったままのセームを抱えて目を丸くしていた。
目の前にいるのは真央とその隣にはセームと同じ天使のランダだった。
ランダもセームと同じで小さくて人形のようだ。
しかしセームと同じ天使が他にもいるとは想像していなかったので驚きを隠せずにいた。
「…………」
ユナが目を丸くしたままセームを凝視していると、真央がその場に座り込み、ピンクの布で包んだ弁当箱を置く。
布を取り、出て来た弁当箱は正直女子高生が食べるものとは思えないほど大きな三段もある重箱のようなものである。
弁当箱の蓋を開けるとキチンやポテトサラダ、塩おにぎりや卵焼きなど数え切れないほどの食べ物がぎっしりと詰め込まれている。
真央はにこっと愛らしい笑顔を浮かべている。
お箸を割りながら明るい声を発する。
「ほら、お弁当食べながら話そうよ!」
「え? でも私はもう食べちゃったし……」
「いっぱいあるから分けてあげるよ。好きなの選んでー」
「う、うん」
美味しいそうな弁当に惹かれたので頷いてユナもその場に座る。
フォークを受け取り、卵焼きに突き刺すと口に運んだ。
その様子をじっと見ていたセームはちょこちょこと歩いて来て服の裾を引っ張ってくる。
「どうしたの?」
「それは、うまいのか?」
セームが指差したのは卵焼きだった。
「うん、美味しいけど食べられるの?」
「どうだった?」
セームはランダに視線を移した。
「食べられますよ。特に食べても異常はなかったです」
(天使が人間の食べ物食べると異常とか起きる可能性あるのか……)
「む、そうか。ではユナ殿、その卵焼きを」
「大きくなった方がいいんじゃないかな。その姿だと卵焼きが大きすぎだろうし」
「いや、このままでいい」
「へ?」
「このままの方が一つで腹いっぱい食べられる」
そう呟いて今のセームからしてみれば大きすぎる卵焼きを受け取ると、かじりついた。
もしゃもしゃと自分といほぼ同じ大きさのそれを食べる光景はシュールだった。
「そ、それより、そこのランダさんも天使?」
「悪魔です」
「天使だろ馬鹿め。悪魔と名乗りたいなら黒い羽でも生やしてから言え」
「ランダ君は強いんだよーっ。どかーんって倒してたよ」
「悪魔を?」
「うん、悪魔」
笑顔のまま頷く真央。
真央は天使の存在を信じていると言っていたことを思い出した。できるなら会いたいとか。
それなら一応夢は叶ったことになるんだろうか。
想像していた天使とは多少違うかもしれないが、真央の嬉しそうな様子を見る限りその辺りは問題なさそうだ。
ユナはじとっとランダを見つめた。
「ま、真央を危険な目に合わせたらダメだから」
「危険な目に合わせたりしませんから、えへへ」
(……最後のえへへがなければ多少は説得力があるはずなのに)
「にしても小さくなってると可愛いよねーっ! 鞄にぶら下げるといい感じだよ! あとお風呂とかね」
ランダが真央の鞄にぶら下げられて振り回されて目が回っている姿を想像して流石に同情したが、ふと疑問に思ってセームに視線を移し
て問いかけた。
「ランダの性別は女の子かな」
「いや、男だろう。女に見えないこともないが」
「真央、一緒にお風呂入ったりしちゃダメ!」
「え? 何で? 可愛いから楽しいよ。小さい頃にミホちゃん人形とお風呂入ってたの思い出すんだよ」
首を傾げながらそう言った後、ミホちゃん人形の思い出を語りだした。
「でもソイツ男」
「でも可愛いよねー」
「いや、だからその……よろしくないと……」
「え? 何で?」
「せ、セーム。うまく説明をお願いしたい……」
「無茶言うな。スッカラカンに何を言っても無駄だ」
そのまま沈黙した。
確かにセームの言う通り真央には何を言っても無駄だろう。
結局問題は解決しないまま放っておくことになってしまう。
いつかどうにか解決しようと決意はした。