複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【オリキャラ残り10人!】 ( No.107 )
日時: 2012/08/29 12:47
名前: ナル姫 (ID: hH3N1CbI)  

キリキリ、キリキリ。糸を引く音が小さく響く。ここが限界、となった時、蒼丸は一匹の猪に向かって矢を放った。ドスッと鈍い音をたて、猪の腹部に刺さる。政宗はその間にも、もう何匹か猪を退治していた。
幾らか時は経ち、何時の間にかあと一匹。かなりの大物だ。
それに向かって政宗と蒼丸は糸を引く。まず政宗が放つが猪はそれを見切り、横へと避けた。その瞬間に蒼丸が放ったがそれは外れ、猪は政宗に向かって突進する。驚いた政宗は馬を誘導出来ない。そのまま猪は馬に激突し、政宗も馬から振り落とされた。

「クッ…」
「政宗様!」

猪は咲の乗る籠へ向かった。蒼丸は政宗を見る。だがすぐに目を反らした。幸い猪は衝撃で動けずにいる政宗を狙っていない。だとすれば、心配すべきなのは咲だ。あの猪を止めなければ。矢を取り出し、弓を構えた。

「くそッ…止まれェーーッ!!」

悲痛な叫びと放たれた矢がその場を切り裂く。籠にぶつかる、まさに直前に、猪の胴体に矢が刺さった。
息が上がる。蒼丸は安心して、ペタリと地面に座り込んでしまった。籠から、恐る恐る咲が顔を出し、その目に蒼丸と捉えると、彼の方に走っていった。

「蒼丸!」
「姉上!」

彼女は彼を力一杯抱き締めた。

「姉上、怪我は…」
「大丈夫だった…有り難う、蒼丸…!」

抱く力が、一層強くなる。

「流石だよ、アンタ」
「?」
「流石私の弟だ…!」

蒼丸の目から、大粒の涙が零れ出した。目を細めて、はい、と返事をすれば、彼も彼女を抱き返す。
政宗は数人の家臣に支えられ、痛そうに頭を抑えながら体を起こした。彼の馬の日向も、家臣が起こしてくれていた。幸運にも、怪我はなさそうだ。
政宗は蒼丸と咲の方に目を向ける。その近くにあった大きな猪の死体に目を見開く。

(こいつが…倒したのか…?)

呆気にとられて蒼丸を見詰めていたが、彼は気付いていなかった。
蒼丸と咲の姿に、本当に小さい笑みを溢して、立ち上がる。

「政宗様、お怪我は…」
「無い…案ずるな」

辺りを見渡す。猪の血と死体だらけになってしまった野原。これだけの数の猪が居れば、大人数で猪汁でも食えそうだ。岩城に持っていって調理でもしてもらうか?
そんなことを考えながら蒼丸に近づき、彼の後ろ襟を掴んだ。

「わっ」
「いつまでやっておる」

言いながら彼を咲から引き剥がした。

「咲姫、無事か?」
「あ、はい…着物も」
「…しかし政宗様…我々の衣装が…」
「咲様の付き人がこの有り様では、岩城どのに会わせる顔がありませぬ…」

政宗は近寄る家臣の服を順に見る。確かに、土や血が付着した着物で婚儀はできない。仕方無い、と少し肩の力を抜いた。

「皆、米沢に帰るぞ」
「へ?」
「その服では岩城に行けぬだろう?なら帰るより外あるまい」

政宗の茶髪が風に揺らされた。家臣達はそうですな、と互いに言い合い苦笑して、帰る支度を始める。政宗も馬に乗った。蒼丸も急いで馬に乗る。
政宗が馬を歩き出させたのを合図に、一行は米沢へ向かった。



→最近のやつに比べて短め。これで短めってどう言うこっちゃ。