複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【オリキャラ残り9人!投稿お願いします!】 ( No.117 )
日時: 2012/09/02 16:16
名前: ナル姫 (ID: cZfgr/oz)  

城に帰ると、晴千代を負ぶった定行が出迎えた。

「皆様!よくぞ御無事で…」
「只今、定行」

満面の笑みで蒼丸は定行に言う。服は多少汚れているものの、本人は元気そうで定行は安心した。

「政宗様、誠に申し訳ありません…」
「良い」

隻眼を閉じ頭の笠を取った彼は、左手に笠を持ち、右手で日向を撫でた。日向は気持ち良さそうに目を瞑り、政宗の手に顔を預ける。

「蒼丸様、晴千代様を御頼みできますか?馬を片して参ります」
「良いよ。自分で出来る」
「そう…ですか?」
「心配しないで、定行」

そう言って、蒼丸は馬小屋へ向かった。

「…政宗様…ありがとうございます」
「…」
「蒼丸様…少し、元気になった様です。晴千代様の家督相続式の時は、とても暗い顔をしていたのに」
「…礼なら儂ではなく小十郎に言え」
「片倉様の小姓になることを許したのは貴方ではありませんか」

苦笑して、定行は政宗を見た。政宗は特に何も答えず、定行を見ようともしなかったが、日向を撫でる手が止まっていた。

「…聡いな」
「いえ…それくらいは分かります」
「流石、木野家の末裔と言ったところか」
「…木野家も…」

もう私くらいしか残ってませんけどね、と空を仰いで呟く声は、拾えないほど微かで、悲しそうだった。


___



「御苦労様でした、政宗様、蒼丸」

屋敷に入ると小十郎がいた。蒼丸も元気に答える。

「政宗様、岩城への詫びは如何なさるおつもりで?」
「誰かてきとうに行かせる。彼奴辺り…」

政宗が言ったとき、階段の方から聞こえたドタドタと慌ただしい音。政宗と小十郎は大して驚きもしなかったが、蒼丸の頭上には無数の疑問符が浮かんでいる。

「政宗…様!!」

袴を履いた少女、とも思えるくらい、可愛らしい顔つき、小さな体。そして何より、それは主の帰りを心の底から喜ぶ犬の様に見えた。と言うか何故、政宗と様の間が少し空いていたのかが不思議である。

「佳孝、階段は左様に慌ただしく駆けるものではない」
「あっ…申し訳ありま…御座いません!」

小十郎の忠告にわたわたと応える、佳孝と呼ばれた少年を蒼丸は凝視した。その視線に気付いた佳孝も、不思議そうに蒼丸を見た。主と同じ色の目を持つ、同い年くらいの少年を。

「えっと…?」
「この子は蒼丸。私の小姓です、佳孝」
「成程!宜しくお願いします、蒼丸く…殿!」
「此方こそお願いします、佳孝様」

本当は政宗様の弟だ、何て言ったら面白い反応しそうだな、と蒼丸は頭の隅で考えた。

「…佳孝」
「は、はい!」
「岩城に詫びを入れてこい」
「畏まりました!!」
「…出来るのか?」

頼んでみたが、どうやら不安のようだ。気持ちが解らなくない。先程から敬語を使う際につっかえるのだから。

「で、出来ますよ!」
「…なら頼んでおく。明日の早朝にでも発て」
「はい!!」


___



夜—…。

客間で、晴千代を寝かし付けた定行は、一人縁側に出て月を眺めた。僅かに雲掛かる空に、星は少ししかなかった。

(…哉人様)

彼は心の中で、亡き哉人に語りかける。

(蒼丸様は、私達の見えないところで、確実に成長なさっていらっしゃいますよ)

だから。

(貴方様も安心して、御休み頂きますよう)


切に……。