複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【オリキャラ残り9人!投稿お願いします!】 ( No.122 )
- 日時: 2012/09/06 14:53
- 名前: ナル姫 (ID: tBS4CIHc)
早朝、目が覚めてしまった蒼丸は、寝巻きから蒼い着物に着替え、まだ朝日が東側から顔を覗かせたばかりの空を眺めた。空気は冷たく、西の空は暗い。
(…そう言えば…)
『岩城に詫びを入れてこい』
『明日の早朝にでも発て』
(佳孝様?…が岩城に行くんだよな?今は馬小屋かな)
自分と大して変わらない年の少年が兄の命を受けてそれを果たそうとしている…彼とは違う。あまりにも、違いすぎる。岩城への行き方も、詫びの入れ方も、彼は何も知らない。
だが彼は兄の家臣に興味を持っていた。人柄もそうだし、何より、兄が佳孝にどう接しているのか。興味から、自然に動き出す蒼丸の足。向かう先は、馬小屋。
___
「よし、行こうか若葉」
一匹の小さめの馬に話し掛ける佳孝。その後ろから、漆黒の髪を揺らしながら息を切らして走ってくる少年がいた。
「佳孝様!」
「あ!…えっとー…」
「蒼丸です」
「そうそう、蒼丸さん。どうし…如何なさいました?」
「あ…その…」
そう言えば、特に大した用事はないのだった。衝動に動かされて来てしまったが、だからなんだと言うのだ。
「用事は、特にないんですけど…」
吃りつつ発した言葉の先が見付からない。其処で、不意に浮かんだ疑問。
「…一つ、聞いても良いですか?」
それを、口に出す。その後、佳孝は少しキョトンとして。軈てその答えを出した。
「人生を捧げると誓った、大切な人…です」
一筋の風が二人の髪を撫でた。
成実に教えて貰った、自身の兄の過去の話を思い出す。
『兄を支えろ』と言われた政道兄上。
『天下をとれ』と言われた政宗様。
僕の立場は、政道兄上と同じ、兄を支える立場にある。
(人生を捧げられるだろうか?)
「僕、もう行く…行きますね?」
「あ…はい。ありがとうございました」
お辞儀をした蒼丸を背に、佳孝は馬を前に進めた。
『一つ、聞いても良いですか?』
貴方にとって、政宗様は何ですか?
___
「違う態とじゃない。断じて態とじゃないんだよだから許してイタタタタタタタ痛い痛い!!本当態とじゃないんだって許して許して違う愛ちゃんの寝込みを襲おうとした訳じゃなくてギャアアアアアアッ」
政宗の部屋から聞こえる成実の悲鳴。事の発端はついさっき。
朝っぱらから、政宗に用があるとかで成実は米沢に来ていた。寝ているところを驚かしてやろうと思い寝所に侵入したら、其処に居たのは政宗と添い寝している愛で、その瞬間丁度政宗の目が覚めてしまい
現在に至る。
手足を荒縄で縛り付けられ、従弟の思い付く限りの暴力を振られた成実の体力はもはや限界。話せる状態かどうかすら疑問である。
「…で、何の用じゃ?」
自分に散々暴力を振った癖に悪気なしに用を訊いてくる従弟のこの性格を何とかしたいと、成実は結構真剣に考えた。まあそれはどうでも良い。と言うか多分もう遅い。
本題を持ち出した。
「何か猪退治の時、蒼が一番の大物仕留めたって聞いてさ…お前気にしてんじゃないかなって思…」
「…」
無表情のまま反らされた顔。完全に図星である。
「えっと…梵天丸?」
「………で?」
「で?ってお前…」
ただでさえ朝から寝所に入られ眠りを妨げされた挙げ句この言葉だ。不機嫌になるのも仕方はない。
「折角気落ちしてねぇか心配してやってんのに!」
「黙れ」
「酷すぎる…」
「フン」
「…気にしてねぇの?」
「……」
気にしてない訳がない。
彼処で蒼丸が矢を放ち、猪を殺さなかったら…咲だけではない。動けなかった自分に、体力を消耗しきっていた兵達も、皆殺されていた可能性があった。
…情けない…。
形だけでも弟。兄弟の末っ子。
政宗は少しだけ、その弟の成長を恐れていた。