複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【オリキャラ残り3人!10月14日締切!】 ( No.134 )
日時: 2012/09/24 21:38
名前: ナル姫 (ID: ChJEPbqh)  

夕方になって佳孝は帰ってきた。馬小屋から出て城内に入る。最初に会ったのは蒼丸が朝会った女性だった。

「あ、納さん」
「佳孝様」

彼女の名は桜重納。侍女である。

「政宗様の居るところ何処?…っですか?」
「自室にいらっしゃるかと」
「ありがとうございます!」

笑顔で挨拶し、佳孝は政宗の部屋へ向かった。ドタドタと城内を駆け回り、すぐ政宗の部屋に着く。襖の前で立ち止まった。

「政宗様!佳孝です!」
「入れ」

元気な佳孝の声とは裏腹に冷たく放たれた声も佳孝は気にせず、スッと襖を開けた。政宗は佳孝を一瞥し、また読んでいた書物に視線を移動させる。そしてその本を閉じた。

「報告を聞こうか」
「はいっ!」

佳孝は隅から隅まで報告し、政宗はそれを時々苦々しく笑って聞いていた。結局、敬語が完璧とはならなかったか。

「つまり支度が出来次第連絡すれば良いのだな」
「はい!…あと…言いづらいのですが…」
「?」

政宗の前で縮こまる佳孝に視線を向けると、冷や汗をかいている事が分かった。何だ、と政宗は彼に訊く。意を決したように顔をあげた佳孝だが、実際口にはしづらい。

「常隆様が…婚儀の際、政宗様の舞いが見たいと…」
「…舞い、じゃと?」

真顔だが、大分焦っていた。舞いだなんて、何時振りの話だと思っているのだ彼奴は。暫く踊ってなどいない。多分踊れない。だが古くからの誼がある上に血縁関係だ。簡単に断ることは出来ない。…肩が、重い。

「…分かった。考えておこう」
「分かりました」

佳孝が下がり、政宗は一人で考えた。
さて、どうしたものか。小十郎や成実に言ったところで、囃し立てられ結局やることになるのは目に見えている。自分に忠実な綾や納に話したらきっと決断は丸投げにされる。父もきっと丸投げか、やることになる。佳孝はこういう難しい問題は分からなそうだ。
誰か…それも、岩城にも発言力のある人が、反対してくれないだろうか。

(…無理じゃろうな)

なら取り敢えず、少しだけでも練習しておくか。

(囃されるのに変わりはないがな)


___



夜、城内が少し騒がしいと、蒼丸は感じた。家臣が皆楽しそうな顔をして庭へ向かっている。蒼丸の頭上には無数の疑問符が浮かんでいた。
その時。

「あら、蒼丸君」

声に驚き後ろを向くと、愛がいた。

「愛姫様!」
「蒼丸君は見に行きませんの?」
「え…何をですか?」

愛は、知らないのね、と言いながら微笑し、蒼丸にこっそり耳打ちをした。

「政宗様の舞いよ」
「…え?」


___



庭では、黒い袴に灰色の羽織を着た政宗が、憂鬱そうな顔で手に持った扇子を見ていた。政宗の周りには楽器を持った家臣達。時折、はあ、と溜息が聞こえる。小十郎はその様子をクスクスと見ていた。
蒼丸は小十郎に近付く。

「あの、片倉様」
「あぁ蒼丸。来たのですか」
「これは一体…どういうことなんでしょう?」
「咲姫の結婚の際、舞いを見たいと言われたそうで…断れずに、この次第です。昔はよく踊っていらっしゃいましたが、最後にやったのが六年も前ですから」

練習したいそうですと、小十郎は付け足した。
周りを見渡すと、興味津々な家臣が面白いものを見る目で政宗に注目していた。その視線に耐えきれなくなったのか、政宗が小十郎に文句を言い始める。

「小十郎、何じゃこれは」
「貴方が舞の練習をなさると仰りましたので、舞台と音楽をを用意いたしました」
「そう言うことではなくてだな…」

無気力そうに、何故全員見ているのかと訊ねる政宗。対して小十郎は楽しそうにさあ、と首を傾げた。

「それより政宗様。家臣が待ち草臥れておりますので」
「…計算済みか」

政宗が言い切ると同時に、楽器が夜の空に鳴り響いた。