複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【オリキャラ残り3人!10月14日締切!】 ( No.135 )
- 日時: 2012/09/29 21:03
- 名前: ナル姫 (ID: 6xeOOcq6)
笛の音から、次に響いたのは小さな太鼓。最初、ゆっくりだった政宗の動きが、楽器に合わせて早くなる。
顔は真剣そのもの。たまに間違えたりもしているし、全体的に動きがぎこちない。彼の人間らしい、完璧ではないところだ。
曲調が少し変わった。政宗は扇子を持った左手を前に出し、右足を後ろに引く。左足を軽く上げ、右足を回転させることで体の向きを変えようとしたが、軸となる筈の右足が地面を確り踏めず。
「あっ…」
派手に転んだ。黙って見守っていた家臣からドッと笑いが起こる。蒼丸と小十郎も肩を竦めて笑った。耳まで赤くなった政宗はすぐに立ち上がり、袴についた土を払う。そして両手をパンパンと叩き、目を閉じて言った。
「か…解散解散!集中できん!」
転んだのを家臣の責任にする辺り、政宗はまだ結構幼い。そう考えた蒼丸は、クスクスと笑った。
「しかしそうなればいつ練習なさるのです」
「暇な時和尚に習うっ」
半分自棄になって小十郎に反抗する。小十郎は残念ですなぁとあまり残念ではなさそうに言った。
段々と解散し、仕事に戻る家臣達。蒼丸も政宗に見つかる前に行こうと思って、この場から抜け出した。
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翌日、政宗は綾を連れて宮森城を訪ねた。本来なら館山にいる輝宗だが、政宗が二本松を攻めるに当たり宮森に移動して来たのである。
「一応、お前が挙げた降伏条件は言い渡した。あとは向こう次第じゃ…まぁ、あの分じゃと直ぐ降伏することになるじゃろうが」
「…左様で」
「浮かぬ顔じゃな」
「父上」
「なぁに、心配するな。簡単に死にはせん」
政宗の声を遮り、輝宗は笑いながら息子の頭に手を乗せる。
「お前が儂に天下を見せるまでは…な」
わしゃわしゃと撫でられた、政宗の髪が乱れた。軽く伏せられた政宗の瞼から、不安そうな瞳が顔を覗かせる。
「天下をとった暁には、天晴れの一言で締め括らせてくれぬか」
「今言わずに内証にすれば良いものを」
政宗は苦笑を漏らす。
「忘れそうな気がしてな…お前が儂に教えてくれ」
「…はい」
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「はぁ…次は和尚の所か…」
輝宗との話を終わらせた政宗は、虎哉の下へ向かおうとしていた。だが、舞いを習いに来たと言った時の師の反応を思い浮かべると、足取りは重くなる。それを見ていた綾が、嘆息しながら政宗に話し掛けた。
「しっかりなさいませ。岩城の頼みは理由が無ければ断れぬと仰せられたのはご自身では御座いませぬか」
「…とは言えな…」
小柄な政宗と、女性のわりに身長の高い綾とでは、あまり身長が変わらない。多少威圧感が感じられるのも仕方ない事だ。
「なら、城に戻り家臣の見守る中で練習なさいますか?」
淡々と言葉を発した綾を恨めしそうに見れば無表情な顔がそこにあり、政宗は漸く寺に行く覚悟を決めた。
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蒼丸は小十郎の部屋の前の廊下を拭いていた。雑巾を一度絞りに行こうと、汗を吹きながら歩いていたとき、前から声が聞こえた。
「獅子丸!走るなって!」
「五月蝿いな!早く来いよ!」
「!獅子丸!前!!」
「えっ?わっ!!」
直後、蒼丸は強い衝撃を受けた。そのまま後ろに倒れ尻餅をつく。
「いってぇ…」
「いてて…」
「ごっごめんね獅子丸が…君、大丈夫?」
「は、はい」
目を開けて声のした方を見ると、蒼丸と同い年くらいの男の子が蒼丸の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「えっ…と?」
「あ、ご紹介遅れました。僕は虎丸。此方が…」
虎丸と名乗る少年が、蒼丸にぶつかった少年を見ると、少年はゆっくりと立ち上がった。
「俺は獅子丸…。
…政宗様の小姓だ」
「…え?」