複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と ( No.15 )
- 日時: 2013/07/25 13:55
- 名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
- 参照: http://p.tl/p3NR
事の発端は四つ半刻前。
この青年は右目に眼帯を付けていた。背は少し低く、声は少し高い。
殺された男は、この野原で酒を飲み、その空き瓶をそこらかしこに散らかしていたのだった。一言で言えば、『迷惑者』。但しそれは青年にとっては、だ。この野原に、二人以外の人は誰も居なかった。しかしこの青年はこの行為を許さなかった。
自分だけの場所に、勝手に入るな。況して、其処を汚すなど言語道断。
この言い分は、まるで子供が、誰の物でもない、皆が使う玩具を、自分の物だと言い張るのと同じ様に聞こえる。だが、彼にとっては其処は他の誰の場所でもない、自分の場所なのだ。それを勝手に汚したのが、どうしても許せないのだ。
「……誰だ、貴様」
「あん? 何だにーちゃん? 俺に何か用かよ?」
「誰だと聞いている。質問に答えろ」
「テメェ偉そうに……!」
「其処は儂の場所だ」
「俺が先だろう。俺のもんだ」
ニカッと笑う男が忌々しい。日に焼けた肌、腕や足は毛深く、無精髭。服は所々破けていた。『絵に描いたような山賊』──そんな表現が当てはまる。
「文句有るなら、勝負でもしようじゃんか。勝った方の場所だ」
男は太刀を手にした。青年も刀を抜く。
「生死は」
「問わねぇ」
ニヤリ、不敵に笑う。瞬間、男は太刀を振り上げ青年に向かって走り出す。青年は動かない。男が太刀を振り下げた時だった。
フラリと、青年は何事も無かったかの様に横へ避けた。そして、男の背後を取る。ヒヤっとした、冷たい物が男の首筋に当たった。男の鼓動が五月蝿く鳴る。
「テメェ……!? な、何者だ……!?」
「そのうち分かろうよ。では違う事を問う。此処は誰の場所じゃ?」
「こ、此処は俺の……」
「愚か者め……」
青年は背伸びをして、男の耳元で囁く。
「此処は竜の住処であるぞ……?」
男の顔が蒼褪める。まさか、アンタは……震える、微かな声。
「死ね」
ドスッと鈍い音がして、男がその場に倒れた。刃が心の臓に刺さっている。
そして現在に至るのだ。
青年が枝を捨てた時、男が一人やって来た。二十代後半辺りだ。
「政宗様」
「何の用じゃ、小十郎」
「また城を脱け出して……程々になされ」
「真、口煩い奴じゃ……」
青年に『小十郎』と呼ばれた男は、胡散臭い笑顔を顔に浮かべていた。
自らを『竜』と言った青年。戦場における、その登り竜の様な姿。右目を失った竜は、『独眼竜』と恐れられた。
その竜、名を、伊達政宗と云う。