複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【コメを下さると嬉しいです…】 ( No.197 )
日時: 2012/10/29 14:51
名前: ナル姫 (ID: QDxiFvML)  

突然現れた少女の容姿に、蒼丸は思わず苦笑を漏らした。侍女は今まで沢山見てきたが、こんな人は…正直見た事がない。

「またっ…貴様と言う者は…!」

凄まじい怒りを感じ取れる口調。この人は身嗜みには物凄く厳しい事を今更ながら思い出す。蒼丸自身、咲の結婚式の際に服装を直されていた。

「あの子は…」
「あれがさっき話してた子、桐定蓮。仕事嫌いで、何かと理由を付けては休んでて」
「ズボラ(無精)な子でなぁ、ある意味政宗様にとっちゃ一番の敵やね」

そんな人がいたのか、と蒼丸はポカンとする。
そんな会話を三人がしている間に少女は茶を置いて逃げたらしく、廊下には本日二度目の政宗の怒声が響いた。


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その後、凉影と尚継は最近の出来事について政宗から話を聞いた。大内に対する小手森の撫で斬り。畠山の降伏意思と、その降伏条件…。

「…しかし政宗様、少し条件が厳しいのでは?」

尚継に政宗は少しムッとする。仕方無かろうと小さな声で呟いた、その時。

「俺もそう思うね」

不意に二人の背後から襖越しに聞こえた声。その主は成実だった。

「成実様やないですか」
「お久し振りです」
「久し振りだな、凉影、尚継」

三人の笑顔の前で、政宗だけ口を尖らせた。

「どういう事じゃ、成実」
「どうもこうも、尚継の言う通りだって事だよ」

成実は堂々と政宗の前に胡座を掻いて座る。真っ直ぐ政宗を見据える瞳は、怒りをも含んでいるように見えた。

「本当にあの条件で畠山が降伏するとでも思ってんのかよ」
「確かに畠山は小心者ですけど…それだけで簡単に降伏するような輩でもないでしょう」

成実と反論する尚継。政宗は言う事が無くなったのか、頭を掻いて顔を顰めた。遣り取りを見守っていた凉影が口を出す。だがそれは反論ではなく。

「政宗様、何をそないに怯えてはるんですか?」

政宗の目が僅かに見開かれた。
『怯えている』…?自分が?何に?

「知らんっ」

政宗は席を立つ。これ以上色々と言われては気が狂いそうだ。

「何処行くんだよ、梵天丸」
「…寝る」
「そうかい」

見向きもせずに答える政宗。成実は溜息をついて、政宗を目線で追った。襖を閉める。やっと辛い空気から解放された政宗は、途端にその場に座り込んだ。


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「あのさぁ」
「はっはい!?」

仕事に戻った蒼丸は、いきなり後ろから話し掛けられ、肩をびくつかせた。咄嗟に後ろを向くと先程の侍女。

「そんなに怖がらないでよ」
「ご…ごめんなさい…」
「ま…良いや」

はぁ、と溜息を吐く蓮に、蒼丸は首を傾げたかった。何がしたいんだろう、この人は。

「アンタさ、政宗様の何?」
「へ?」
「だから、政宗様の何?」
「何って言われても…」
「表向きは片倉様の小姓らしいけど…元服もしていない人が帯刀して、城下に遊びに行って、政宗様の部屋に入るなんて普通じゃないでしょ」

そりゃそうだ。無精と聞いたが、どうやら観察力はあるらしい。

「まぁ私はアンタの名前も知らないし、何であろうと口出しする気は無いけどね」
「そう…ですか…」
「そ、一寸気になっただけ」

でも一応、名前だけ教えて。静かに淡々と吐き出された言葉に、蒼丸の鼓動が少し早く波打つ。やっとこさ出てきた己の名を、相手がどう感じるかは分からないけど。

「伊達…蒼丸」
「ふぅん…伊達蒼丸ねぇ…

…宜しく、蒼丸」



→蒼「って事で、第二章地道に話が進みつつ『伊達家の仲間編』終了です!」
成「あ、二章だったんだ」
政「そして意外に名前が決まっていた二章」
蒼「次回から三章です!宜しくお願いします!」