複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と ( No.20 )
- 日時: 2013/07/25 14:01
- 名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
- 参照: http://p.tl/tz49
疲れた。
それだけが、式を終え、部屋に戻った彼—伊達家の当主となった政宗の頭の中に残る。きっとその疲れは式の長さのせいだけではないだろうと彼は思う。
一番の要因は…不安。
この、羽柴が日の本を手中に納めようとしている今、家督をついだのだ。それから奥州(今の福島、宮城、岩手、青森の四県と、秋田の一部に当たる)を平定し、それから天下を目指すことになる。
長い道のりだ。
「生まれて来るのが…遅かったか」
苦笑した彼の、右目の瞼に、幼き日の自分が写る。まだ純粋な自分。
醜さを知らない自分。
「…政宗様…?」
襖の向こうから声が聞こえた。
「入ってよいぞ」
淡々とした口調で彼は応えた。スッと静かな音を立て、襖を開けたのは彼の正室(本妻)である愛姫だ。
「…お顔色が…悪うございまする」
彼女の手が政宗に触れた。目の端で愛姫を見ながら、政宗は溜息をついた。
自分は演技が得意だ。
さっきも式中、ずっと笑っていた。愛想がいい子供のように。
でも…この人の前では嘘がつけないという人もいる。
彼の前で正座した愛姫の胸に顔を埋めた。頭に、何か小さな物が触れる。
—…手?
そんなことを考えている彼の耳元で彼女はそっと囁いた。
「貴方が辛いときは、私が支えます…」
優しい気持ちに、声。
あぁ、と応えた彼の心は、違うものを欲していた。
(儂が欲しいのは…違う)
なぜ手に入らない?
___
「ホントに怖かったんだって!!」
「偶然ですよ…政宗様が意図的に貴方を睨む理由がありませんから」
「でも〜…」
「はいはい、さっさと軍法を学んでください」
蒼丸は、確かに自分は睨まれたと定行に訴えた。偶然なんてあるか。定行の言う通り、意図的に睨む理由はないが、蒼丸にはそうしたように思える。何と無くだが…そんな気がした。
「それに挨拶の時の笑顔…凄かったし…」
「第一印象は明るくいきませんと」
「う…」
口喧嘩で勝てるわけがない、か…そう考えて諦めた。
蒼丸は政宗を怖がっている反面、憧れていた。やはり、才能だろうか。戦国を生き抜くには十分な素質だと思う。
早く家督を継ぎたい。あの御方みたいに。
そんな彼の願いが主のせいで崩れるまで、あと少し。