複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【コメを下さると嬉しいです…】 ( No.211 )
日時: 2012/11/10 21:27
名前: ナル姫 (ID: 1wSGUlCd)  

政宗と小十郎が過去を回想している頃、二人の姫と二人の侍女が茶会を開いていた。

「め、愛姫様…流石にそろそろ政宗様に気付かれるのでは…」
「平気よ。どうせ怒ったりなさらないわ」

にっこりと笑みを顔に浮かべ茶を点てる愛。それをはらはらと見守るのは侍女の納と恋、そして成実の正室、光。
愛は急に光を呼び出し、侍女を集め茶会を始めたのだ。彼女の真意も読み取れぬまま、三人は勧められるがままに茶を飲んでいる状態だ。
ただの茶会。そう思っていた三人だったが、四人分茶を点て終わった愛が、唐突に口を開いた。

「政宗様が——可哀想」
「え?」

思わず聞き返す光。恋と納は黙って聞いていた。

「何だか最近、ご様子がおかしいの。何処と無く不安がっているような…」

静かに言葉を紡ぐ彼女の目もまた何処か不安そうな色を見せていた。

「部下…小十郎さん達なら詳しい事が分かりそうだけど、何しろ忙しそうだし…だからこうして皆を集めたの」
「愛姫様…」

訪れる沈黙。
確かに、ここ最近政宗は疲れているだろう。大内の裏切り、畠山への警戒、それに関して成実と冷戦状態でもある。尤も、今朝方成実に宮森に行くよう命じた所を取ると、そこはあまり気にしていないようにも思えるが。

「…成実様…」

光が口を開く。遠慮がちな声は沈黙している部屋の中でやけに大きく響いた。

「昨日、後悔していらっしゃいました。言い過ぎたと言うか、態度が悪かったと…」

光は顔をあげて続ける。

「それに、愛様はきっちり奥方としての役目を立派に果たしていらっしゃいます! 光は…そう思います」
「——…」

再び訪れた沈黙は、意外と直ぐに破かれた。破いたのは声ではなく、襖を開く音。

「…」
「っ政宗様っ!」

恋と納が慌てて跪く。政宗は二人を見て嘆息、そして目線を二人の姫に移した。
光は口をパクパクと動かし、愛は何事も無いかの様に政宗の方を見て微笑んだ。政宗は愛に近づき座る。

「…全ては俺が何とかする。…だからお前は、心配がるな」
「政宗様…?」
「心配しなくても、お前は俺の安息の場所だ…何も気にしなくて良い」

それだけ告げて立ち上がる。あまりに突然で、愛さえも呆然としてしまった。だが、その去り行く背に、はい、と短く返事をして微笑む。政宗は振り向くことなく襖を閉じたが、愛には分かっている。

(…今のは、照れていたから振り向かなかったのでしょう?)

そこには笑える空間があった。安心できる居場所があった。
だが、確実に、その空間と居場所は今、漠然とした不安に覆われていた。
そして、それは……大きな、漠然とした不安は——……。


___



一方蒼丸と成実は途中に休憩を挟みながら馬を走らせ、夕刻になって宮森に着いた。中に入り、成実が輝宗に挨拶すると言った所で、漸く蒼丸は成実の意図が分かったようだ。

「成実様ッ…」

いきなりは無理ですと、言いたいことも言えない程の緊張に包まれる。何も知らない輝宗は一歩ずつ確実に二人に向かってくる。

そして。

「おお成実、待たせ——」

輝宗の瞳孔が開く。

——間違いない。
艶やかな髪、蒼味係った黒い瞳、白い肌も、鼻も、口も、よく似ている。
式典では何度か見かけたが、話し掛けられなかった。話し掛けてはいけなかった。蒼丸が不審に思うし、何より秘密が知られてしまう危険がある。
だがもうそんな事も必要ない。
だから十三年分、ちゃんと愛してやらねば。

輝宗の体が、少年を強く抱き締める。

「十三年——、よくここまで成長したな…

蒼丸……!」



大きな、漠然とした不安は——


最悪なカタチで結末を迎える。