複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【コメを下さると嬉しいです…】 ( No.245 )
- 日時: 2012/11/25 14:36
- 名前: ナル姫 (ID: jSrGYrPF)
雨は降り続ける。
何時までも、何時までも。
「入るぞ」
「は」
男達は足を進め、門に近づく。罠かと思える程に、警戒心の欠片も無い門だった。誰一人として門番がいない。
音を立てて門を開く。男達は城内に入った。
___
「茶入れてきたぞ」
「おぉ悪いの成実」
「ありがとうございます」
「蒼、熱いから気ィ付けろよ」
湯気の立つ茶に息を吹き掛けようとして、顔を湯呑みに近付けた時だ。
「兄上」
廊下から聞こえてきた足音と声。その主は政景だった。襖が開かれる。政景は慌てているようだが、輝宗は対してそれに動揺していなかった。
「如何したのじゃ」
「畠山が…」
成実の眉間がピクリと動く。その動きを、蒼丸は見過ごさなかった。何かが起こる……この人はそう思っている。
「用件は?」
「仲介の礼です」
「分かった。通せ」
畠山義継——蒼丸が彼を見るのは初めてだ。第一印象は、大柄なわりに不安そうな表情を浮かべていて、小心者、この表現がしっくりくる。
そう思いながら輝宗に感謝の念を伝える義継を見ていた。
御人好しな輝宗だ。茶なんか出して世間話でもしているかの様な雰囲気だった。
話が終わり、義継は米沢に寄ってから帰ると言った。
「門まで送りましょう」
そう言って二、三人の家臣と外に出ていく輝宗。蒼丸は中で待っていた。早く戻って来ないかな、と考えながら。だが、城内が急に騒がしくなる。
「追えっ逃がすな!」
「畠山を捕らえろ!」
「えっ…?」
何が起こったのか分からない蒼丸の指に、何か固い物が触れた。——輝宗の刀。嫌な予感が身体中を駆け巡る。まさか……まさか!!
蒼丸は夢中で外に出た。其処には、もう輝宗と義継はいなかった。
——父上が拐われた。
次々と門から出ていく家臣に目も向けず、蒼丸はその場に座り込んだ。
知らせは直ぐに米沢まで伝えられ、政宗や小十郎達も武装して義継を追った。逃げた先は伊達領と畠山領の間、阿武隈川。長い時間を掛けて到着した其処には、人質に取られた輝宗と輝宗の両手を縛り付ける義継、そしてその家臣がいる。
「父上ッ!!」
「!政宗!」
「畠山!貴様何を!」
小十郎が叫ぶ。畠山はただ汗を流して何も言わない。
政宗の頭が混乱する。どうする?どうする?どうする?どうすれば良い!?
「政宗様っ…」
指示を待つ家臣の声も遠い。政宗の朦朧として来た意識をハッキリさせるように、輝宗は叫んだ。
「何をしておるっ!早う撃てッ!!!」
「ッ——!!」
「このまま連れ拐われてはお前は動けん!父が子の足を引っ張ってはならん!!」
『天下を取れよ』
「政宗っ撃て!!」
「政宗様っ」
「梵天丸…」
『お前が大好きだよ』
「政宗様!」
「殿っ」
政宗は静かに拳を握り締める。
「鉄砲隊、構えろ!」
「ば、馬鹿な!伊達政宗…父諸とも殺す気か!」
慌てる義継を他所に、輝宗は何処か嬉しそうに頬を綻ばせた。父と子の間に、同じ思いが浮かぶ。
——十九年……楽しかったなぁ……。
引き金を引く指示。雨なのに、乾いた音。
___
竜は暫く動けずにいた。ただそこにある幾つかの死体を、呆然と眺めていた。穴から、血、血、血が。川に流れる。涙も出ない程、突然だった。あまりにも早すぎた。
あぁ……死んだんだなぁ。もういないんだ。名前も呼んで貰えないんだ。笑い掛けてもくれないんだ。
——寂しいなぁ……。
——悲しいなぁ……。
「うわああああああああッ!!」
ただ叫ぶ。泣いているのではなく、叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。
雨は降り続ける。
ザアザア、ザアザアと。
孤独な竜の叫びを消すように。
ザアザア、ザアザア、ザアザア。
何時までも何時までも。