複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【クリスマスアンケート実施中】 ( No.264 )
- 日時: 2012/12/13 17:31
- 名前: ナル姫 (ID: j69UoPP8)
——同時刻、米沢城東館——……。
「止みませんね」
「自然の恵みよのう?」
漆黒の髪の青年の言葉に、同じ髪色の女性が微笑みながら応えた。それに青年も微笑み、刀を撫でる。青年は顔こそ笑っているが、心中は穏やかではなかった。胸騒ぎ——何故か、嫌な予感が彼の胸中を駆け巡る。
雨のせいだろう、と言い聞かせるが、どうも収まらない。
部屋に訪れた沈黙を破ったのは、慌ただしく階段を駆ける音だった。
「お東様、政道様!!」
「何ぞ、騒々しいのぅ。もう少し静かに出来んのかえ?」
お東は声のした方には目も向けず、淡々と言葉を返した。だが部屋に入ってきた人物——綾には、そんな声は届いていない。
「——っ輝宗様が…お亡くなりに、なりました…」
___
「——政宗様」
未だ、阿武隈川には無数の死体が転がっていた。家臣は皆帰る支度を始めていたが、政宗だけはそこから動こうとしない。
「…風邪を引いてしまわれますよ」
「…小十郎」
不意に、政宗が口を開く。
「…儂は結局…どうするべきだったのだろうな」
「…」
間違っていないと。貴方の行動に誤りはないと、小十郎は答えたかった。
……だが、それも叶いそうにない。もうこの人は、心に深い傷を負ってしまった。
今更何を言おうと、変わることなどない。
「…分かりませぬ」
それでも政宗の目は、そんな小十郎の心情すら見透かしているような気がして、目を逸らした。
「…そうか」
薄く微笑んだ仮面は、雨に打たれても剥がれることはない。
空を仰ぐことはなく、ただただ転がる石を見た。
___
「父上が…亡くなった、だと…?」
政道が復唱した瞬間、お東が唇をわなわなと震わせ、勢いよく立ち上がった。
「貴様ぁっ!!」
「っ!」
綾に駆け寄ったかと思うと、その胸ぐらを掴み己へと近付ける。
「何を申すかと思えば!何て事を!あの御方が簡単に死ぬものか!!」
「母上!」
激昂したお東に政道が叫ぶ。肩を震わせているお東だったが、政道の声で我に返ったのか、綾を離した。
「…訳を、聞かせなさい」
優しく話す政道に綾もいくらか落ち着いたのか、事情を話し始めた。
暫くして話を聞き終えた二人は、悲しそうに目を伏せた。——しかし、悲しそうなのは政道のみで、お東はその目に怒りの色を含ませていた。
「あの…っうつけめが…!」
「母上…兄上とて辛い選択でしょう!それをうつけなど…」
「そなたは悔しゅうないのかっ!?」
「っ…」
核心を突かれた政道は、下を向いて黙り込んだ。
…悔しくないわけがない。
一時期は、自分が家督を継ぐ筈だった。
名前だって、『宗』の字を貰えると思っていた。
自分には、優れた学者がつくと思っていた。
だが、家督は兄が継いだ。
『宗』の字は貰えなかった。
兄にしか、優れた教育係りはいない。
その兄が、父を殺した。
強い嫌悪感と悲しみ、そして憎さが渦巻く次男と、悲しみに暮れ、涙に濡れる三男。そして——真っ暗な暗闇に包まれ、何も見えない長男。
三兄弟の距離は、再び、次第に、確実に……この雨の中で、離れつつあった。
→えっと…短めです。すみません。
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