複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【クリスマスアンケート実施中】 ( No.271 )
- 日時: 2012/12/18 18:35
- 名前: ナル姫 (ID: QDxiFvML)
小浜城にて、輝宗の葬儀は執り行われた。
虎哉と何人もの坊主達がお経を読み上げ、その後ろに沢山の家臣達が両手を合わせて目を瞑っていた。
彼等の先頭に座っていたのが政宗だったが、その顔は俯いており、表情は見えない。右斜め後ろに控えるお東、その左——政宗の真後ろに政道、更にその左に蒼丸が並んでいる。蒼丸の長い髪は下ろされていた。
後ろに控える家臣達は、涙を流す者、歯を食い縛る者、眉間に皺を寄せる者、様々だったが……その中に明るい顔をする者は一人もいなかった。
葬式で明るい顔など不謹慎、そういった理由もあるが、何より——
輝宗は偉大だった。
誰よりも優しく、誰よりも大きい心の持ち主だった。戦国の世には向かないが、人の心を多く寄せ付けた。
政宗と比べられていたのだ。
政宗が暗い子だった。それ故に余計、輝宗の日溜まりのような優しさが目立ったのだ。自然に、飽くまで自然に——人は、輝宗に惹かれた。
……本当に、本当に良い国主だった。
___
お経の読み上げが終わり、遂に死体が火葬された。
燃える。変な臭いを出して、ただ燃えていく。
ヒラリ、と服の断片が舞った瞬間——。
「お…おい梵天丸?どこ行くんだよ!?」
政宗が急に後ろを向き、どこかへ向かって歩き出した。それを成実が追い掛けようとしたが、声によって止められた。
「追わん方が良いんちゃいます?」
「…凉影」
「一人になりたいんやと思いますわ」
「…お前は人の心を読むの上手いけど…彼奴の事に関して言えばお前より知ってる自信あるから」
それだけ言い残し、成実は背を向けて走り出した。その背を、蒼丸が心配そうに見詰めていた——。
___
「おいぼんて…」
「何故付いてきた」
「何でってお前…」
政宗は固く口を閉ざし、成実の方を見ようとしない。沈黙が続いたが、それを破ったのは政宗の方だった。
「…成実」
「あ?」
「お前は…どうだ?」
「え…そりゃぁ…悲しいし、負い目だって感じてるよ。…俺、あの場にいたのに…危険に気付けなくて」
戸惑いつつも成実は答えた。政宗は静かにそれに応える。
「…儂もだ」
「ぼん…」
成実が言い掛けた瞬間、鈍い音が響いた。音の方に目を向けると、政宗が石の塀に拳をぶつけていた。
「ぼ…梵天丸…」
「同じだ」
「え…」
「危険に…気付けなかったのは儂も同じだ……お前は気付いていただろう」
「……」
『本当にあの条件で畠山が降伏するとでも思ってんのかよ』
「儂はそれがどうしようもなく口惜しい」
確りと紡がれる言葉に、成実は何も言えなくなる。目を政宗の拳に向けると、余程強く打ち付けたのか、石の表面に血が流れていた。
「…でも…まさか、輝宗様に被害が及ぶとは、誰も考えねぇだろ…?」
お前は間違っていない。必死になって、そう伝えた。仕方無かったと。そんな状況で父を撃てるお前もまた、偉大だと。
「若君様!ここにいらっしゃいましたか!」
突然後方から聞こえた声に、二人は振り向いた。声の主は、輝宗が宮森にいた間館山の館にいた基継だ。息が切れている所を見ると、輝宗の訃報を聞き、急いで来たのだろう。
「…基継」
「は」
「…すまぬ」
「わ、若君様…?」
突然の謝罪に、基継は狼狽した。
「…お前も恨んでおるか…?」
「そんなこと!寧ろ、若君様のお心を思えばこそこの基継の心は苦しくなりますれば!」
「…そうか」
政宗は目を細め、空を見上げた。いつの間にか、雲が消え去り、憎いくらい晴れ渡った空を。
——蒼か……。
「…若君様は素晴らしいお方でございます」
「…世辞は要らん」
政宗は自虐的に笑う。その目はどこまでも悲しそうで、寂しそうで。その笑みは——どこまでも、歪だった。