複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【参照2000突破!クリスマスイラスト】 ( No.283 )
日時: 2012/12/25 20:38
名前: ナル姫 (ID: hH3N1CbI)  

「蒼」
「!成実様…」
「眠いだろ?部屋に戻って良いんだぜ?」
「い、いえ…大丈夫です」

空には既に星が輝いていて、子供ならもう寝ている時間だった。だが蒼丸は最後まで父と共にいたいと、墓場まで付いていった。
穴が掘られ、輝宗の骨が埋められていく。棺が段々と見えなくなる。皆は、死んでしまった、もう会えない、そういった気持ちなのだろう。だが蒼丸だけは、元々無かったものが突然自分の前に現れ、また突然居なくなったと言う様な気持ちだった。やっと手に入れた玩具を、いくらもしないうちになくしてしまった様な

喪失感。

横を見れば、二人の兄は顔に表情を出さずに、両手を顔の前で合わせていた。もう余計なことは考えずに、父の冥福だけ祈ろうと、蒼丸も目を瞑った。
次男の政道は、とある衝動に駆られていた。こんな機会滅多にない。兄が今隣にいる、自分は懐刀を持っている。兄を殺すまたとない機会だと。それでも、それは場の空気と彼の理性が許さなかった。——それに、抜いた所で兄もまた刀を抜き、あっさり止められるに決まっている。

(…平常心平常心…)

顔に浮かびそうになる期待の色と憎しみの色は、無理矢理に奥へと押し込められた。


___



——翌日。

「父は…本当に立派な御方でした。親子三代に渡り続いた確執の為に安易な出陣は許されず、諸大名に嘲笑されながらも最後まで戦国に生きる大名としての誇りを棄てずにいました。父はよく、私を誉めてくださいました…刀を巧く使えると…しかし私は、父の足元にも及ばない、出来の悪い片目です…」

家臣の前で、淡々と政宗の言葉が続いた。その声には最低限の感情しか含まれておらず、乾いた挨拶だった。

「…どうか、父の冥福を御祈りください」

政宗が頭を下げると、家臣もそれに続いて頭を下げた。
この時の政宗は切なそうな目をしていたが、葬儀が終わった後は——。


___



「若君様…」
「何じゃ」
「せめて、一ヶ月は御休みいただけませぬか。米沢にて…若君様も、家臣も皆疲れておりますでしょう?」
「…初七日が済んだら出陣する」
「そんな」
「黙れ」
「若君様!」

政宗の目は復讐に燃えていた。鋭い左目は獲物を狙う竜のようで、基信もそれ以上は何も言えずにいたのだが、政宗が歩き出した先にある人物が現れ、その足を止める。

「政宗様」
「…凉影…」
「遠藤はんの御言葉も、しっかり聞いた方が良いんちゃいますか」

笑顔の下に隠れる政宗を諌めるような表情を、政宗は読み取った。その瞬間、彼の瞳が上目遣いで凉影を睨み始める。凉影より小さい彼では、少々迫力不足だったが。

「そこをどけ」
「どきまへん」
「どけ!」
「どきまへん」

笑みが深くなる。それを見た瞬間、政宗の中の何かが壊れた。

「どけと言っているッ!!」

戦以外では……いや、戦においてでも滅多に聞かない怒鳴り声だった。驚いて硬直する凉影。彼の目が見開いたまま止まったのを見ると、政宗はそのまま歩いていってしまった。
——誰も気付かなかったが、その一連の流れを影から見ている人がいた。蒼丸だ。彼の瞳は怯えの色を浮かべており、とても政宗に話し掛けに行ける状態ではない。蒼丸とて戦には反対だ。今の軍の状態を考えて、勝てるとは思えない。しかも相手は難攻不落の畠山の居城、二本松城だ。

「っ…政宗、様…」

小さく小さく縛り出された声は、誰にも届くことなく消えた。


___



——二本松城

「父上を殺した挙げ句、その御遺体を川で晒し者にしただと…!?」
「は!確かなことで御座いますれば!」
「おのれ伊達…許さぬ!」


___



——八日後、小浜城

「揃ったか」
「はい」
「——よく聞け、皆。これより我らは、先代の敵を討つべく——

二本松攻めを決行する」