複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と ( No.3 )
日時: 2013/07/24 17:19
名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
参照: http://p.tl/nZ38

その日、金田氏の居城、金田城は何時もより騒がしかった。理由は一つ。この城の若君が写経を放り出して何処かに逃げたのだ。城外は考えられない。だとすれば城内しか有り得ないのだが、どうも見付からないのだ。

「蒼丸様は見付かったか!?」
「見付からない!! 何処へ行ってしまわれた!?」

そんな家臣達の焦った声を聞きながら、この城の若君──金田蒼丸は、クスクス笑っていた。

(あぁ可笑しい……必死になっちゃって)

彼の隠れている所は厨(クリヤ:台所の事)。かれこれ四つ半刻(30分)は隠れている。

(にしても、どうしようかな。此処から出たら写経だし……でも何時までも隠れてたら父上に怒られる……)

そう思って溜息をついたとき、黒い影が彼の頭上に掛かった。流れる冷や汗を隠す事は到底不可能で。

「あ〜お〜ま〜る〜さ〜ま〜」

彼には聞き馴れた声。流石と言うべきか、彼を見付けたのは彼と長く共に居る人。彼の教育係の木野定行だった。

定行は彼の教育係として、五年程前から蒼丸と共にいる。蒼丸が七歳、定行が十四歳の時だ。

「さ、蒼丸様。部屋に戻りますよ」
「うぅ……」

蒼丸も諦めて定行に従った。でも、こんな下らない事も、二人にとっては大切で、掛け替えの無い時間。

二人の強い結び付き。


___



その日の夕方、蒼丸の父親で金田城の城主、金田哉人カナダナリヒトが帰って来た。家臣が蒼丸が写経から逃げ、厨に隠れた事を話したら、彼は豪快に笑い声を挙げた。

「哉人様ッ! 笑い事では御座いませぬ!! 蒼丸様の自由奔放過ぎる性格は何とかすべきで……」
「まあそうカリカリするな。良いではないか」
「しかしッ!! 蒼丸様は金田家の家督を相続される身でございまする故……」
「その頃にはもう少し落ち着いているだろう」

何を言っても効果無いなと判断した家臣は、眉間に皺を寄せて溜息をついた。