複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と ( No.30 )
日時: 2013/07/27 13:51
名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
参照: http://p.tl/gaYI

少し前…


「政宗様、大内定綱がお会いたいそうですが…如何なさいますか?」
「…良いだろう、通せ」

政宗が家督を相続したにあたり、前は伊達傘下だったが蘆名家についた大内が降参してきたのだ。…が。

「お願い致しまする…お父上様の代から恩があるにも関わらず、最近お心に背くような真似ばかりしまして、大変反省しているのでございます…」

丁寧な謝り方だが、この青年当主が感じたこの言葉の第一印象は、『嘘臭い』だった。
長いし、心が込もっていない感じだ。これを罠だと考えることもできる。伊達に入り込んで、蘆名に情報を流そうとしているのではないだろうか?
そんな政宗の疑念を感じ焦ったのか、ペラペラと更に沢山謝罪を行ってた言い始め、聞いていた政宗の笑顔が引き攣っている次第だ。
政宗は小十郎を見た。一度様子を見ましょう—…彼の顔はそう語っている。

「…まぁ、良いだろう…」
「有り難き幸せに存じ奉ります…」

定綱の口の端が、上に、僅かに上がった。


___



「えー?梵天丸、彼奴許したのかぁ!?」
「悪いか」

何か文句でもあるかと言いたげな、明らかに不機嫌な政宗の前で驚いているのは彼の従兄の成実だ。成実は、政宗の事を彼の幼名である『梵天丸』で呼んでいる。

「…それ、哉人とか輝宗様とかに言ったのか?」
「言ってない」
「馬鹿正直だな…」
「嘘ついてどうする」

不満そうに口を尖らせる主を見て、成実は脱力した。

「…今言った人くらいには言おうぜ…?」
「まだ正式に服従しておらん。言ってどうする」
「え…そうなのか?」

意外、と言うような成実の声を聞き、政宗は又何か不満かと言うのであった。


———



一方、金田城では、蒼丸の剣—といっても木刀だが、それの稽古を定行がつけていた。蒼丸は頭脳派で、刀は中々上手く使えない。

「蒼丸様ッ!!もっと体の軸をしっかり保ちなされ!!」
「じ、軸!?」

蒼丸が定行の言ったことを繰り返すと、彼に隙が出来た。それを狙い、定行は刀を弾く。蒼丸の木刀は空高く飛んでいき、軈て落ちた。

「はぁ、はぁ…」
「未々ですな」
「…軸って、何?」

蒼丸が聞くと、定行は少し笑って、蒼丸の目の位置にしゃがんだ。

「軸とは何か…それは、私にも分かりませんが、大切なものですよ」
「…」
「軸がしっかりしてなければ、攻撃を受けた後に反撃する為の体制がとれません。それは戦場では決して在ってはありません」
「どうしたら、それは出来るんだ…?」

定行は又、ニコッと笑う。

「心の軸を作るのです」
「?」
「詰まり、強さ…何事にも負けぬ、強さを身に付けてください」
「…うん!」

蒼丸も笑う。
そして、それが早く家督を継ぐ為の近道だと信じていた。