複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と ( No.319 )
- 日時: 2013/01/30 15:40
- 名前: ナル姫 (ID: ChJEPbqh)
「素晴らしい御方ですよ」
「はぁ…」
「今の畠山殿を貶すつもりはありませんけど…やっぱり私の主は素晴らしい」
「性格に難があると聞きますが」
「それも…段々治ってます。何て言っても、とある小姓が闇から引っ張り出してますからね…。
どうです?伊達家についてみませんか?」
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色々なことがあった。
政宗が家督を継いでから、大内と対立して、蒼丸に秘密が知られて、畠山に裏切られ、輝宗が死亡して……そして今朝、輝宗の側近だった基信が輝宗を追って腹を切った。
「惜しい人を、亡くしましたな…」
「仕方もあるまい。基信の事じゃ、予想はできていた」
小十郎の言葉に、ペラペラと本を捲りながら政宗は無表情で答える。
「…人の話聞いてますか?」
「聞いてなければ返事などせんだろう」
「それはそうですが…何を読んでいるのです」
「平家物語」
「左様で…」
政宗はそれを読み進め、時折頬を緩める。区切りの良い所まで読み終えたのか、パタン、と音を立たせて本を閉じた。
「今、戦場はどうなっておる?」
「雪が降り積もり、攻めづらいです。凉影は策を立て終わり再び戦場へ、成実は前線で猛戦中。綾は凉影の代わりに佳孝を連れて成実の援護を」
「……尚継は」
「凉影の作戦に従い二本松へ」
「…何を勝手な」
ハア、と再度溜息をつくが、見たところそこまで怒ってもないし、困ってもいないようだ。二人が優秀な部下だと分かっているからだろう。
「まぁ良いが…どんな策じゃ?」
「知りませぬ」
「…は?」
「知らされておりませぬ」
「…落城するまでのお楽しみとか言いたいのか。解雇してやろうか彼奴等」
「二人とも手放すのは惜しいのは貴方様が一番理解しているものと存じまする」
「……」
小十郎の言葉に遂に返す言葉を失い、政宗は再度本を開いた。もっともその直後、誤魔化さないで頂きたいと言われ出来る事すら失ったのだが。
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「まだか!伊達はまだ退却せぬか!」
「それどころか、日に日に押す力が強くなるばかりで…」
国王丸は怒りを自身の内側に収めることが出来ずにいる。さらに家臣の報告で機嫌は悪くなる一方だ。
「丹波も稲葉も…っ!何をやっておる!」
声を荒らげながら二人に振り返る。丹波と稲葉は、申し訳ありませんと言いながら頭を深く下げた。
——次の瞬間。
「えっ…?」
丹波が突然国王丸に襲い掛かり、その手を拘束した。稲葉は短刀を抜き出し国王丸の首筋に宛がう。ありに急な事に報告をしに来た家臣も反応できずに呆けていた。
「た、丹波…稲葉…!?」
「国王丸様…貴方をこれから、伊達家へ連れて参ります」
その瞬間、国王丸は全てを理解した。
「…っ!!…寝返ったな…!!」
「我々は…藤次郎政宗様に御味方致す!」
そう言い、二人は国王丸を連れて城から逃げ出した。呆けていた家臣も、やっと我に返る。
「っ!国王丸様!!」
叫ばれた声は、誰に聞かれると言うこともなく消えた。
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「…主に無断で敵方の陣中に潜り込み相手の有力家臣を唆し結果的に敵将の身柄を此方へ連れてきたのは功労に値する。御苦労だった」
何処か皮肉な言い方で家臣二人を政宗は誉めた。
「怒らへんのですか?」
「…別に」
ふいっとそっぽを向く。そして、捕らえられた少年——国王丸に目を向けた。彼は上目使いで精一杯政宗を睨み付ける。憎しみが込められた強い眼差しだ。
「…さて、この餓鬼はどうするか」
「っ…好きに、しろ…!」
「殺しても構わないと言うか?」
「構わない…寧ろ早く殺せ!!」
自ら死を望む少年。政宗がスルッと懐刀を抜いた時、別の少年の声がその行動を遮った。
「待っ…て下さい!」