複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と ( No.324 )
- 日時: 2013/01/31 10:59
- 名前: ナル姫 (ID: zi/NirI0)
「待っ…て下さい!」
「?」
「蒼君…」
「蒼丸…」
「蒼丸さん」
「蒼丸様?」
各々の反応を示す小十郎、凉影、尚継、綾、そして縄で縛られている国王丸。政宗も声こそ出さなかったものの、突然の乱入者に驚いたのか、少し目を見開き声のした方向へ視線を向ける。
「蒼君、どないしたんや?」
「成実、様に、二本松、落ちた、聞いたんで…」
余程走ったのか途切れ途切れに蒼丸は話す。
「で、何でここに?」
凉影の代わりに、今度は尚継が疑問を口にした。
成実が、作戦が成功したらしいなと蒼丸の前で呟いてしまい、その作戦の内容を蒼丸に問い詰められたらしい。蒼丸としては、単に将来のための勉強として聞いただけなのだが、内容を聞いて嫌な予感がしたのだ。
「案の定殺す所でしたね」
飽くまでのんびり、小十郎は話す。また言わなくても良いことを、と政宗が溜息をついたが、気付いてないのか気付かない振りなのか。
「…で、蒼丸はそれを止めに来たのですね?」
「——はい」
凛とした声で、確りと蒼丸は頷いた。同時に、纏められた髪が揺れ動く。
「…なぜ止める」
淡々と放たれた政宗の言葉に、蒼丸は少し吃りながらも力強く答えた。
「だって…その、この人は、まだ子供ですし…あ、いや、僕もですけど…兎に角、この人も驚いたと思うんです。いきなり父親が死んで、こんな年で城主になってしまって……なにより
悲しいのは、この人も政宗様も同じでしょう?」
少しの沈黙が訪れる。軈てそれが破られた。
「如何なさいます?」
小十郎が政宗に問い掛ける。政宗は暫く何を言わず、軈て顔を上げて言った。
「綾、そいつの刀を抜け」
「はい」
綾は国王丸の腰に差してあった刀を鞘ごと抜き取った。それを政宗に手渡す。もう、家臣は何がしたいのか分かったのだろう。頬を綻ばせていた。
だがここで、急な展開を理解できていなかった国王丸がやっと状況を理解し、声を荒らげる。
「なっ…何を馬鹿な事を!私を殺せ!無駄な情に流されるな!!早く父上に会わせろ!!」
「…馬鹿が」
ポツリと政宗が口に出す。それと同時に、後ろから納がやって来た。刀を持っている。更に蓮と恋もやって来た。
後から来た二人の侍女は、黙々と国王丸の縄を解く。
「な、何、を…っ止めろっ…!早く殺せ…!」
国王丸の声による抵抗も虚しく、あっという間に縄はほどかれた。
そして政宗は言い放つ。
「逃げろ」
「……は?」
「早く伊達領から出ていけ」
「ふっ…ふざけるな!!私に生き恥をかけとでも言うのか!?」
「殺す気が失せた」
もう一度溜息を政宗はついた。そして更に続ける。
「南へ、南へ逃げて…強くなれ。どんな形であれ、儂は貴様の父を殺した。儂はお前の仇になる」
「……」
政宗は後ろに控える納屋から刀を受け取った。そして目の前の少年城主に差し出す。
「義継の刀だ…阿武隈川で殺した時に持ち帰った。別に何に使う訳でもないがな」
国王丸は恐る恐ると言った感じで刀を手に取る。
「その刀を持って遠くへ行け。奥州から出て、関東も過ぎて、それこそ南国の方へ。それでいつか強い軍を持って——
仇をうちに、ここへ帰ってこい」
国王丸は奥歯を食い縛る。零れ出す雫を拭って立ち上がり、その場から駆け出した。
軈て姿が見えなくなると、政宗は裏切り者達に目を向ける。
「この二人、どうします?」
綾が尋ねると、政宗は好きにさせておけ、と面倒臭そうに言った。
「…裏切ったとはいえ、主の事は気になるだろうし…儂に従う気も無かろうに」
その言葉を聞くや否や、二人は勢いよく国王丸が走っていった方向へと駆けていった。足音が消えると、政宗がさて、と作り物の笑顔で一人の侍女を見る。
「…髪を解かそうか、蓮?」
そうしてまた何時もの鬼ごっこが戻って来て、伊達家に久々の安堵が戻ってきたのはまた別の話。