複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【四章突入!】 ( No.328 )
日時: 2013/02/05 12:41
名前: ナル姫 (ID: hH3N1CbI)  

「成実様、寒くないですか?」

昼頃の大森城。音も立てずに開いた障子。
城主の成実は少し驚いていたがその障子を開けた人物を瞳に捉えると、その人物に微笑んだ。
畠山との戦が終わった今、成実は自身の城である大森城に戻っている。
ふいに従弟の声が蘇った。

『仇をうちに、ここへ戻ってこい』

(丸くなりやがって…)

嬉しくもあるような、寂しいような気持ちに包まれるが、取り敢えずは返事をしよう。

「お前こそ。まだ師走だぞ光」
「こそって…上着も着ずに刀振ってるような人に言われたくはありません」

呆れたように、それでも嬉しそうに、人物——光は、雪の上にその足を下ろした。

「ちょっ…草鞋くらい履け!足袋じゃん!」
「裸足の成実様に言われたくありませんって」

にっこりと微笑んではいるものの、足の裏が冷えてしまう。成実は慌てて光を抱き抱えた。

「し、成実様!?」
「だってお前の足が冷えちゃうだろ」
「だってって…」

光の顔が茹で上げたように真っ赤になった。成実はそれを見ながら、可愛いと口にする。ますます光の顔が赤くなったように思えるが、成実は敢えて気付かない振りをしたようだ。

「遊んでほしいなら夜たっぷり遊んでやるよ」

言いながら、成実は彼女を縁側に座らせる。

「そんな事を望んでた訳じゃないです…」
「ほー、しなくて良いの?」

昼間から夜の話を持ち出す成実。光は耐え切れなくなったのか、顔を反らした。

「…おいおい…それじゃあ梵天丸と一緒じゃんよ」

苦笑しながら、成実は彼女の隣に腰を下ろした。反対側を向く彼女に、こっち向いてー?と一方的に話し掛ける。

「…ったく…分かってるよ。上着着ろって言いたいんだろ?あと足袋」

やっと光が成実の方に顔を向けた。

「からかって悪かったよ」

ニッと彼は笑って見せた。光は一度だけコクリと深く頷く。
その瞬間——。

「んっ…」

光の口が柔らかい何かで塞がれる。長く長く口は塞がれ、息が出来ない。

「成実様っ」

光の小さな両手が成実の鍛えられた胸を押し返した。

「ごめんごめん。光があまりにも可愛かったから」

何の悪気も無かったかのような言い草に光は再度溜息をついたが、今度は自ら、相手の口を塞いで見せる。
視線と視線が、熱い息が、舌と舌が重なりあう。

「っ…はっ」

酸素を欲した二人の口は自然と離れ、飽くまで自然に笑みが零れる。

「悪戯っ子め!」

お仕置きだ、と言って彼は彼女の口をまた塞ぐ。

「さっきのがお仕置きだったのに、意味ないじゃないですか!」

もう、と呆れながらも、彼女も彼の口を塞ぐ。
何度も何度も繰り返された。
楽しそうに、嬉しそうに。
大森城の城主夫婦は、熱く愛を確かめ合う。離れないように。まるで、二人で一つであるように。

「…愛してるよ、光」
「知ってますよ…愛しています、成実様」
「知ってる」

口に出す必要なんてないことはお互い知っている。でも、口に出さなければいけないほど愛し合っているのも知っている。お互いが愛しくて仕方ない二人は、きっと明日も明後日も、これからずっと先も、愛を確かめ合うのだろう。
愛している、愛していると、何度も何度も言うのだろう。
それでも全部を伝えられないほど愛し合っている二人は、虚しいだろうか。それとも充実しているのだろうか。
……だが。

「あー畜生ちいせえな光!」
「人が気にしている事をっ…てゆうか上着着てください成実様!」
「うっせぇなぁ。良いんだよ馬鹿は風邪ひかないから!」
「あっ言いましたね?今自分の事馬鹿って認めましたね!?」
「うん、認めた…って何!?光俺の事馬鹿だって思ってる!?」

少なくとも、二人は幸せそうだ。