複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と ( No.331 )
日時: 2013/02/18 14:10
名前: ナル姫 (ID: MK64GlZa)  

——昨日、夕方……。

「——二条殿……ある小姓を貰う気はありませんか?」
「へ?」

政宗が突然言い出した頓狂な話に、和典が間抜けな声を出した。

「え…小姓を?」
「その…」

どこから説明しようか悩んでいると、唐突に襖が開く。

「あんま、広めんといて欲しいんやけどな」

聞こえてきた奇妙な言葉。その方向に顔を向けると、狐のような顔付きをした男性がいた。

「初めまして、ですなぁ二条はん。儂は和泉凉影っちゅー者ですわ」
「お前の自己紹介はどうでも良い」

呆れながら政宗が凉影を睨む。凉影はヘラリと笑い、まあまあと言いつつ政宗の横に座った。

「政宗様がゆうとるのは、実は伊達本家の三男なんですわ。蒼丸君ゆうて、まだ十三の少年でふぐっ」
「もう良い。と言うか止めろ」

あまりペラペラと話して欲しくないのだろう、凉影の口を政宗は塞いだ。僅かに額には青筋が浮かんでいる。

「つまり、その小姓はそなたの弟と?」
「…色々ありまして」

小さく頷いて見せれば、和典はふむ、と考えるような仕草をした。軈て顔を上げると、彼は笑顔を見せる。

「良いでしょう。ではその弟君を頂きます」
「ありがとうございます」

お互いに頭を下げる政宗と和典。凉影も続いて頭を下げた。
そんな話があり、その日の夜、少し急だったかもしれないと政宗が愛に溢した所を双子が偶然聞いていたのだが……。

「政宗様ぁ!!」

スパンッと気持ちの良い音が響き襖が開く。いつも通りの無表情の政宗だが、誰かから結婚話を聞いたなと推測し、心は曇る。それを読み取ったのか、傍にいた小十郎が苦笑を漏らした。

「…何じゃ」
「何じゃって…ぼ、僕を結婚させるって…てゆうか婿養子に出すって聞いたんですけど…」
「誰から聞いた」
「…獅子丸さんです」
(あの馬鹿…)

蟀谷が引き攣る。あの双子は普段二人で行動している。そこを考えると、二人とも知っているのだろう。朝は別々の仕事を頼んだから、偶然こいつに会った獅子丸が話したと言う所か。
どちらにしろ、事実をごまかすわけにはいかないのは確かだ。

「…まぁ、事実だ」
「え…本気ですか?」
「嘘じゃないとは思うけどね」
「…えー……って…」

突然に背後から聞こえた朗らかな声の持ち主は成実。にやにやと楽しそうに笑いながら、遠慮することなく政宗の部屋に入る。

「成実…少しは遠慮せぬか」
「俺がすると思うか?」
「……」

確かに遠慮するとは思えない。返す言葉を失った政宗は成実から視線を外し、読んでいた書物にそれを移した。
存在感の強い人物の登場により蔑ろにされかけた蒼丸が口を開こうとすると、またその後ろから政宗様、と遠慮がちな声が聞こえてきた。彼には聞きなれた声で、誰なのかは直ぐ分かる。

「定行!」
「お早うございます、蒼丸様」

にっこりと挨拶をする定行。だがその笑顔は曇り掛かっている。

「今来たのか?」
「いえ、昨日の夜から。政宗様に晴千代様の事で呼ばれまして」
「で、定行はどうしました?」

目を細めて小十郎が訊ねる。……まぁ予想はできているのだが。

「蒼丸様が婿養子に出されると言う話を聞いたので真偽を確認しに…」
「あーそれなら本当だぜ」

軽い調子で答える成実。答えを聞き、定行が心配そうに蒼丸を見つめた。定行の心配性は少し鬱陶しくもあるが、流石に今日は心配されて正解だろう。

「…お前は虎丸か」
「はい…」

虎丸に定行の朝餉を頼んだのが間違いだった、と今更ながら反省する。まぁいずれ知る事ではあるが、それにしても翌日に知られてしまうとは。

「し、しかし蒼丸様はまだ十三ですし…」
「儂が愛と結婚したのは、こいつと同じ十三じゃ。それにこいつはあと二月で十四だが、儂は半年だった」

政宗や小十郎、あと凉影や尚継と口論してはとても叶わない。諦めかけた二人を見て、小十郎が一言。

「ま、取り合えず御話だけでも…」
「そんなぁ!!」