複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【蒼丸、ごめん】 ( No.333 )
- 日時: 2013/02/25 22:02
- 名前: ナル姫 (ID: a5oq/OYB)
さて、政宗と和典の話の中に出てきた政宗の母——お東は輝宗が死んだ後出家し、保春院と名乗っていた。それでも政宗を強制隠居させ政道を当主にすると言う野望は、今だ激しく燃え上がっている。当の政道は、当主になるつもりなど毛頭ないのだが。
「——母上」
「何じゃ小次郎(政道)?」
「兄上を当主の座から引き下ろそうとするのはお止め下さい……父上も悲しまれます」
「あの人を殺したは奴ぞ。あんな残虐な者、伊達の当主に務まらん」
政道は当主をやりたくない。自分の力量では兄が拡大した領土を削ってしまいそうな気がしたのだ。
会話を変えようとして話題を探した。そして、ふと一人の少年が脳裏を過る。
「時に母上、蒼丸には会いましたか?」
スッと、お東の顔色が変わった。会っていないのだろう。
「会った方が宜しいです!蒼丸は大分成長しております!」
言葉に、お東は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「し、しかしのう…産んだのはわらわであれ、一度養子に送り込んでしもうた……申し訳無いような気がしてならんのじゃ」
「そんな事ありませんよ。今までの分、愛してあげれば良いのですから」
ニコッと政道は微笑む。その笑顔にお東も笑顔を返した。
「さ、小次郎。遅くなるといかん。城にお帰り」
「はい、母上」
そして政道が帰った後——お東は、新たに沸き上がった欲に、醜く顔を歪めていた。その笑顔は愉しそうで嬉しそうで、限り無く病的だった。
___
「貴殿が、蒼丸殿?」
「は、はい…」
和典と向かい合う蒼丸。彼は緊張と不本意さから、汗を流していた。
「儂の娘は今十四なのだが…」
(し、しかも…年上!?)
蒼丸の冷や汗は増えるばかりだ。家の為には結婚しなければならない。でもしたくない。だが年上と言う事実が、均衡を保っていた天秤を傾けさせていた。そして口をついて出てきた言葉が。
「ちょっ…一寸、考えさせてください…」
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「蒼、結局どうしたんだ?」
「少し時間を頂きました…」
「あはは、そりゃぁそうだよなぁ」
朗らかに微笑む成実。そして、その背後から忍び寄る紫色の影は、成実の後頭部を思いっきり殴った。
「あいたぁ!?な、何しやがる梵天丸!」
「貴様、こやつと二条殿が話をする前に帰れと言ったのを忘れたか?」
「いやー、だって結果は知りたいしな」
「そんなのいつか公表するわ」
「一番に知りたいんだ……ごめんなさい。調子乗りました。ゴメンサナイ」
政宗に胸ぐらを捕まれ、本気で成実は謝った。政宗は突き放すようにその手を離す。伸びた襟元を正し、成実は溜息をつく。
「蒼じゃなくても良いんじゃね?梵だって正室しかないだろ?」
「お前もな。なんならお前が貰うか」
「いや、それじゃあ承知しねぇだろ。隣の大名の家臣との結婚なんてさ」
子供には少々難しい話をしだす政宗と成実。蒼丸は二人の話は中々終わらないだろうと判断し、自室に戻ることにした。だがそれを止めるように声が聞こえた。
「貴様はどうしたい?」
成実の様な太い声ではなく、男性にしては細く高い声だった。
——政宗から、自分に話し掛けた——この事実が、蒼丸を圧迫する。そして、結婚したくないと言う気持ちに変化を起こした。
何か言わなきゃ。粗相してはいけない。何か、何か——。
「っ…僕は…」
同じ色彩の目が、政宗を真っ直ぐ見つめた。
「伊達の為に……政宗様の為に働きたいです!だから、お役に立てるなら何だって本望です!」
咄嗟についた嘘ではない。心の底からの叫びだった。
『貴方にとって政宗様は何ですか?』
そして、それは政宗にもそれは伝わったらしく。
「……そうか」
『人生を捧げると誓った、大切な人です』
少しだけ微笑んで見えたのは、気のせいだったのだろうか——?