複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【蒼丸、ごめん】 ( No.340 )
- 日時: 2013/03/05 13:35
- 名前: ナル姫 (ID: ajFjTcav)
【悪と正義の狭間に生きて】
——皆……俺、絶対に政府に入って、皆の仇を討つよ。
——悪を……消すんだ。
___
「ふあぁ……んあ?……ここ、何処だ…?」
政府に入り正義を尽くそうと夢見る少年、ティア・アウカルは見知らぬ部屋で目が覚めた。電球のない天井、フワフワではない、どこか固さのあるベッド。そして毛布ではなく、明らかに服。
扉(?)の様な薄い紙が貼ってあるモノから、日の光が入り込み、鳥の声が聞こえる。
「どこ…?…何だ……?」
「目ぇ覚めたか?」
「!!」
聞こえてきた声に、万引き犯たちと戦った中で培われた経験が、体を反転させながら後ろに退けるというアクションを起こさせた。自分でも驚く。
「んな構えんなよ?別に何をするわけでもねぇしさ。アンタ名前は?」
「いや、それより此処何処!?つかお前誰!?」
「口悪いぞこの糞坊主!」
「口悪いのはどっちだ!……て、え?お、男って分かって…?」
男性はだってさ、と言いながらティアに近付き、ポン、と胸に手を置いた。
「こんなまな板女いてたまるか」
そして漸く気づく。俺、服が違う!!
「裸見たのかあああああ!!?」
「見たよ。服汚れてたし、大体例え女でも俺が女の裸体の一つや二つ見たところで問題はない」
「心の問題があるだろ!」
怒鳴り散らしたティア。成実は軽く諌めるように悪い悪いと笑った。そして再び訊く。
「俺は伊達成実。お前は?」
「…ティア。ティア・アウカル」
「へぇ、宜しく、ティア。お前、城の門の前で倒れてたんだよ。服装が妙だし、興味が沸いてさぁ…何があったんだ?」
「何があったって…起きたら此処に。その前は普通に家で寝たんだけどなぁ」
それからティアは自分の事について語り始めた。だが成実が知らない言葉が多く、混乱しつつの説明だ。
「つまり、お前が住んでるのは俺達と全く別世界。そうとって良いな?」
「多分な」
「道理で変な名前な訳だよ。じゃあここの説明しなきゃな」
成実は戦国時代と日ノ本について説明を始める。ティアは飲み込みが早く、あっさりと説明できた。
「で、俺はそんな戦国武将の一人…伊達政宗の家臣なんだ」
「そ、そうなのか……そいつは、悪い奴か?」
「…え?いや、彼奴は良い奴だよ。冷たいし恥ずかしがり屋だし、強がりだけどさ」
「…じゃあ、どんな奴が『悪』なんだ?この、戦国時代では」
成実は暫し考え込む。そうか、こいつの夢は悪を潰すことだっけ?
「…ちょっと来い、ティア」
「へ?」
「良いから。良いの見せてやる」
そして二人は馬に乗る。暫くして着いた場所は丘。そこから見えたのは——。
「こ、これは…」
銃声、悲鳴、怒声、金属音……銃弾や弓矢が飛び交い、刀でお互いを斬る——余りにも残虐な眺めだった。
「これが俺達——侍の戦いだ。お前らみたいな、爆弾を投げたら誰か死にました、なんて…そんなのとは違う。殺した感触は、確りその手に染み込むんだ」
「そんな…こんなの、間違ってる!人が死ぬだけだ!何でこんなのを続けるんだよ!?」
「正義ってのは、『道理に従った正しい物』だ。だが戦国に道理も何もねぇ。寧ろ、始めっからこの世は間違いだらけだ。だから俺達武士は、屍の上に立ってそこから新しい世を作るんだよ」
ティアは何も言えなかった。血飛沫と阿鼻叫喚が舞う光景を目前に、成実がティアの胸を叩く。
「ティア」
「?」
「『せいふ』にとって、『てろりすと』を潰すのは正義だ。『てろりすと』にとって、物を壊すのは正義だ。自分が正しいと思った事は、何でも正義になる…曖昧ったらありゃしねぇ。だからな」
ティアの頭に自分の手を乗せ、ニッと口角を上げる。
「お前はお前の正義を見失うな」
「…あぁ」
いつまでも続く戦の様子は目に焼き付けて——ティアは段々眠くなる。
___
「起こすか?」
『買い物して疲れてるんでしょ。休ませてあげましょう』
帰ってくるなり寝てしまった家の主を前に、二人のテロリストは呟いた。