複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【蒼丸誕生日企画】 ( No.349 )
日時: 2013/03/12 17:47
名前: ナル姫 (ID: 0M.9FvYj)  

【今と昔とこれからと】



楽獲紗沙は困っていた。
部室のドアを開けたら知らない和室に繋がっていた。しかも好奇心に動かされ入ってみると、その瞬間ドアが消え、帰れなくなってしまったのだ。

「…ここどこ?」

もう一度部屋を見渡す。狭い部屋だ。畳、襖、棚、火鉢……。途方に暮れていると、いきなり襖が開いた。

「!」
「!?」

現れたのは可愛らしい少年。変な服を着ていることを除けば普通の少年の筈だが、その腰に物騒なものを発見する。

(日本刀!?)
「だっ誰だお前!?どうやってここに!?」
「あ、や、話を聞いてくれ。気が付いたらここにいたんだよ」
「そ、そうなのか?」
(マジか、信じてくれるのか!?)

信じてくれるとは思わなかったのだろう、少し呆気にとられる。

「今が何時代で、ここはどこなのか教えてくれるか?」
「安土桃山だ。ここは奥州米沢の米沢城」
「へぇ…」

安土桃山……つまり戦国時代か、と紗沙は考える。

「そういやぁ、名前は?」
「竹葉佳孝。お前は?」
「楽獲紗沙」
「ふぅん、紗沙か。気付いたらってことは全然違う世界の人間なのか?」
「いや…未来から来たみたいだ」

苦笑しながら紗沙は言う。

「それより、この城は誰の城だ?」
「伊達政宗さ、まだ」
「伊達政宗?よく知らねぇけど…つか、何でつっかえるんだよ」
「うっうるさい!」

顔を赤くして怒鳴ったあと、佳孝は少し暗い顔をした。

「どうした?」
「…未来から来たお前が政宗様を知らないってことは…政宗様は天下を取れないのかな…」

紗沙は迷う。教科書に、伊達政宗が載っていない訳ではない。ただ、『1590年、羽柴秀吉に北の伊達政宗が降伏し秀吉は全国統一を完成した』とだけ書いてあるのだ。

「…色々話したら未来変わりそうで怖いから、言わないでおく」
「何だそりゃ」

未来が変わったらどうなるのだろう。自分の存在もなくなるのだろうか。音楽同好会も、部員の皆も、学校も——。
暗い考えに達してしまったのを直そうと、紗沙は話題を変えた。

「ところで、お前ここに何しに来たんだ?」
「…あっ!楽器取りに来たんだった!」

単語に、紗沙が反応する。

「楽器?」
「急ぎの用じゃないんだけどな。夜、政宗、様が舞の練習するらしいから」
「舞か」

本当にこの時代って舞とかするんだな、と紗沙は微笑んだ。そうしている間に、佳孝は棚からたくさんの打楽器や管楽器を取り出していた。流石に金属でできた楽器は見受けられない。

「興味あるのか?」
「あぁ。楽器好きなんだ」
「へぇ。やっぱり、お前の時代とは違うのか?」
「あぁ。こう言うの、俺達は夏祭りとかでしか見ないな」
「そうなのか」

勉強になるな、と言うような顔をする佳孝を数秒間見つめ、その視線を楽器に移した。

「少し、触らせてくれるか?」
「良いよ」

バチを渡された。近くにある中くらいの太鼓を、トン、と叩く。よく張った、良い音がした。それ、締太鼓って言うんだと佳孝が言った。

「これは知ってるか?」
「何だこれ?」
「篳篥」
「ひちりき?」
「こうやって吹くんだ」

下に付いている丸いものの穴に息を吹き込むと、玩具のラッパのような音が響いた。

「面白い楽器だな」
「他にもあるぞ。大鼓、小鼓、横笛、当り金、あと三味線」
「ちょ、そんなに出していいのか!?」
「どうせ全部持ってくしな。それにしても長いこと使ってないから埃まみれだ」

楽器を見渡して佳孝が呟く。紗沙は埃を払いながら、使ってやれと笑った。

「楽器は使われた方が嬉しいだろうからな」

言いながら紗沙はもう一度太鼓を叩く。あぁ、この音は今も昔も変わらない。そしてきっと、この先も……。

「ん?なんだあれ?」

佳孝の声に反応し、後ろを向くと、見慣れたスライドドアがあった。

「俺の帰り道だ。じゃあな、佳孝」
「お、おう!」

紗沙がドアを開き、その姿が見えなくなる。ドアが消えてからも佳孝はポカンとして暫くそこにいた。少しして、小十郎の声が聞こえた。
今行きますと応え、佳孝は楽器を手に部屋から出た。