複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と ( No.35 )
- 日時: 2013/07/27 13:53
- 名前: ナル姫 (ID: 6em18rVH)
- 参照: http://p.tl/qsOy
一度、妻子や家臣を連れてきたいと言う定綱の申し出を許した政宗は今。
「絶対嘘だって!彼奴は信じられねぇ!」
従兄、兼家臣からギャーギャー攻め立てられていた。
「黙れ成実…何度も言うが、嘘なら嘘であやつを殺せばいい」
成実は、涼しい顔でよくそんな恐ろしい事をと思いつつ、政宗に抗議した。
「あー…黙れ、煩い」
後ろ髪を粗っぽく掻いた彼の顔は、明らかに不機嫌そうだった。いい加減にしろ、切腹したいのか貴様はと言いたげだ。これ以上怒らせるのは不味い、そう感じた成実は渋々政宗に従った。
…が、この時は政宗の判断が間違っていたらしい。
年が明ける前、伊達家の家臣達が続々と米沢に集まった。金田、支倉、遠藤、片倉、鬼庭等だ。更には豊臣や、隣国で政宗の伯父に当たる最上義光、その本家の大崎家も使者を寄越した。
皆が大広間に集まったところで、挨拶が始まる。上座にいるのは政宗とその奥方の愛姫。その隣に小十郎、成実。更には今は隠居した輝宗。挨拶は輝宗から始まった。
「皆、今年もそろそろ終わりじゃ。一年、ご苦労であった。皆…それと我が嫡男の働きあり、相馬に支配されていた領地が戻り、儂は感激で一杯じゃ…」
長い輝宗の話。仕方無いことだが、十二歳の蒼丸には退屈でならない。戦に出ないから領地を取り戻せた喜びも良く分からない。金田家は重臣で、席も前の方だからウトウトもできない。
いつの間にか輝宗の話が終わり、政宗が話そうとしていた。家督相続の時と全く同じ笑顔だった。
暫く話が続く。挨拶が終わると、政宗は急に真剣な顔つきになった。
「あと…伊達家家臣の集まる数少ない機会ですので、言っておきます。」
家臣たちは頭の上に疑問符を浮かべている。
「大内定綱が、我らに服従の意思を見せましたので…受けることとしました」
「なんと…」
「大内ですと!?」
「信用なりませぬ!」
家臣達から不安や非難にも近い声が聞こえる。
「まだ正式に服従したわけではありません。こちらも様子見です」
政宗が言うと、次第に静かになった。
「皆様、まだ未熟者の私です、故、判断を誤ることもありましょう…ですが、今暫く私についてきてくださりませ」
そう言って政宗は頭を下げた。
この事を知っている小十郎、成実、輝宗は無言で政宗を見た。
一同が黙った。彼自信がいっていた通り、大内服従を認めるか否か。そして最初に意見を口に出したのは。
「…諾」
「!!」
哉人だった。
「哉人…」
「過ちも…犯してこその人です。況して貴方様は若棟梁。いくらでもお力になりましょうぞ!」
哉人が清々しい顔で言うと、その他の家臣たちは顔を見合わせて、笑った。
「勿論です」
「この命を貴方の為に捧げると決めましたから」
「もし大内が裏切っても、我等の敵ではございません!」
家臣たちの笑う顔を見て、政宗にしては珍しく、彼は安心したような笑顔を見せたのだった。