複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【蒼丸誕生日企画・参照3000!】 ( No.351 )
- 日時: 2013/03/20 14:59
- 名前: ナル姫 (ID: AWGr/BY9)
今回から、参照3000を記念した小十郎のスピンオフ!少々お付き合いくださいませ!
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とある少年の物語。
闇に飲まれかけた、少年の物語。
「ちょっと小十郎!」
焦げ茶の髪の少年は、筆を持ったまま聞こえた声に溜息を吐きながら振り返った。
「…どうしました姉上」
「どうしましたじゃないわよ!鶏の餌は!?」
「あげましたよ」
「はああ!?なんか一羽だけ凄く怒ってるんだけど!?」
「また他の奴に盗られたんじゃないですか?」
そしてまた露骨に溜息をつき続ける。なんか一羽、食欲旺盛な奴がいますし。
この二人こそ、後に政宗の従者となる小十郎と、喜多の姉弟である。とはいえ二人の年は20歳近く離れていた。その為、幼くして両親を亡くした小十郎は異父姉である喜多に育てられている。
「もーあの鶏はしょうがないわね……バラバラに飼うこともできないし…」
喜多が頭を抱えているとき、玄関先で声が聞こえた。その声に反応し喜多が玄関に向かう。暫くして愛想のいい声が聞こえたかと思うと、更に廊下を歩く音が響いた。
多分向かう先は客間だろう。自分の部屋には来ないはずだ。予想は当たり、どうやらこの部屋から離れた部屋に行ったようだった。それを確認した少年は、再び紙に向かい写経を続けようとしたが——。
「えっ…!?」
喜多の声ではたと顔を上げた。何か、嫌な予感が渦巻く。何を隠そう、気の強い喜多があんな不安そうな声を出したのを彼は初めて聞いたのだ。
小十郎は立ち上がり客間へと向かった。そっと耳を近づける。
「ですから、小十郎くんを引き取ろうと思うのです」
「し、しかし両親から、私が育てるように言われましたし…」
「いえいえ遠慮せずに!まだ喜多さまはお若いし大変でしょう?もし義姫様からおのこ(男の子の事)がお生まれになれば貴方が乳母になりますでしょうし」
小十郎の義理の兄で喜多の異母兄である綱元は伊達家に仕えている。綱元の姓は鬼庭だが、片倉家も神社の家系ながら伊達家の支配下に置かれていた。
また、現当主伊達輝宗の正室、義姫は腹に児を抱えていた。この夏に生まれるのだが、その乳母が喜多であると囁かれている。
「そんな中、彼を育てるのは大変でございましょう?我等もおのこが居ないですし、是非頂きたいのです」
話し相手は、声からして親戚の藤田家だろうと判断できた。
まさか、養子として送り込まれることはないだろうと思う。両親は姉に自分の面倒をしっかり見ろと言い残したのだ。だが——……。
「では……お願い、します…」
「っ——!?」
唐突の事に驚いた小十郎は、堪らず襖を開けた。そこには、首を項垂れる喜多と藤田家の人が何人かいた。
「小十郎…」
「あ、姉上…」
「小十郎くん」
姉と向かい合って座っていた中年の女性が小十郎に歩み寄る。
「これからよろしくね」
嫌らしい笑みを浮かべ、彼の顔を除き込んできた。鼻息が少し顔にかかる。思わず小十郎は顔をしかめた。
自分の意見を言わねば。自分はこの家から出る気はないのだから。
「あの、僕はこの家から出る気はないのですが」
「あら、貴方の意見は尊重されないわよ?」
あっという間に返された言葉。小十郎は睨むように相手を見た。
「貴方を育てている喜多さんがどう思うかよ。喜多さんが頼むと言ったのだから、貴方は黙って私についてくればいいの」
何も言えず、助けを求めるように喜多を見つめるが——喜多は、気まずそうに視線をそらした。
小十郎はこの高圧的な態度をとる藤田家の人間を嫌っていたし、喧嘩ばかりするものの、喜多になついていた。それなのに、藤田家に来い?ふざけるな!
「さぁ、どうする小十郎くん…?」