複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【参照3000記念スピンオフ】 ( No.354 )
- 日時: 2013/03/24 17:19
- 名前: ナル姫 (ID: cZfgr/oz)
【ゆびきりげんまん】
それはある意味では偶然で、ある意味では必然で。
ある意味では不意なことで、ある意味では願っていた。
信じれば叶う、という意味では必然だが、まさかこんな女の子だとは。いやぁこれは偶然だ。
全く、確かに願ってはいたがこんな何の前触れもなくやってくるとは。いやぁ、非常に不意だ。
確かに友達が欲しいとは思っていたけど。
「そう言うこと」
長い茶髪を下ろしている少年は疲れた顔で呟いた。
何なんだよ全く。
友達が欲しいとは前々から思っていた。今いる二人じゃ暇だ。誰か、他に友達が欲しかった。そうやって願ったことを今は深く深く後悔している。
……何が悲しくて、『未来から来た』と言う少女を友達として必要とするんだ。
状況はお分かり頂けただろうか。まぁ、そういう状況なのだ。
取り敢えず今が何年でなに時代なのか説明した彼——梵天丸、後に伊達政宗となる少年は深く溜息をついた。
「溜息つくと幸せが逃げるんだよ?」
「煩いな。僕の勝手だろ」
神様仏様。僕がこんな子を欲しがっているように見えましたか。
てゆうか何なのこの子。『未来から来た』。この発言はまぁ良しとして、この浮世離れした雰囲気は何?そして極めつけは自己紹介の時。『私はエルカ。AI』。何だそりゃ。
「兎に角お前は帰る方法でも考えろよ」
「無理だよ。気づいたらここにいたのに」
「……」
返す言葉がなくなる。全く、こいつをどうしろと言うのだ。どこか浮世離れした少女は、使う言葉もさることながら服装が奇妙だ。
また溜息をつこうとしたとき、襖が開いた。
「梵天丸」
赤茶色の髪を揺らしながら少年が部屋に入ってきた。
「……若松」
梵天丸に若松と呼ばれた少年。彼は、後に政宗の実弟蒼丸の教育係となる定行だ。
「良いじゃん。遊ぶ仲間が増えるんだよ?」
「だからってこんな奴は要らないんだよ!」
「良いと思うけどなぁ」
フイッと顔を背ける梵天丸を見て、若松は笑いながら肩を竦めた。梵天丸は膝を抱え込み、腕の中に顔を埋めた。
「名前は?」
「エルカ・ゼロ」
「えるか、ね。宜しく、えるか」
「…若松、仲良くする気か?」
視線をあげ若松に問う。若松は梵天丸に視線を戻し、フワリと笑った。
「梵天丸が仲良くするなら、邪魔はしないよ」
「…戯れ言を」
その言葉にさえ微笑みを返し、若松は部屋をあとにした。さて、二人っきり。気まずい空気が流れる。
「…友達が欲しかった」
沈黙を破ったのはエルカの方だった。政宗は相変わらずの体制でエルカの言葉に耳を傾ける。エルカはそれを確認したのかしないのか、少し間を開けてさらに言葉を紡ぎだした。
「誰でも良かった。一人が嫌だから」
君はどうだった?問われた言葉に、梵天丸も戸惑いながらしどろもどろ答えを出す。
「…誰でも良かったのかも、知れない」
いやまさか、未来から来るとは思ってなかったけど。
「同じだね」
いやまさか、戦国にトリップするとは思わなかったけど。
「何で僕に、そんなこと話す?」
「何となく」
それぞれの言葉を繋げればなぜかおかしく。
「なぁエルカ」
「なぁに?」
「今は戦国時代で、お前がすんでた時代と全然違う」
「うん」
「お前が未来に帰っても、僕のことは覚えててくれるか?」
「うん」
そして彼女は問い返す。私が未来に帰っても、私のことは覚えててくれる?
「…うん」
あぁ、そうか。
僕らは、心に残せるような友達を、仲間を探していてこの世界で出会ったんだね。
「指切り」
「良いよ」
___
幼い幼い約束は、今でも小指に感覚として残っている。あの少女はと言うと、ある日起きたらいなくなっていた。
定行や父に聞いても、誰も少女なんかいなかったと言う。
きっと、幼い夢を現実と間違えたんだろうと言い聞かせながらも、成長した彼はそれが夢でないことを願い、小指を見ながら微笑む。
『ゆーびきーりげーんまん、うーそつーいたーらはーりせーんぼんのーます』——。