複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【本編再開!】 ( No.379 )
- 日時: 2013/04/23 16:02
- 名前: ナル姫 (ID: hH3N1CbI)
少女の名は紅。伊達家と交流の深い二条和典の一人娘である。名前に合わせ音色の着物を好み、武芸よりも文学や生け花などが好きらしい。
「これでくれって読むんだね」
べにじゃないんだ、と蒼丸は意外そうに呟いた。定行は刀を磨きながら、名前に使われる独特の読み方なんですよ、と説明する。相変わらず博識だ。
「…でも、年下の婿養子かぁ…」
「この城にはもう政宗様と愛様のご夫婦がいらっしゃいますから…それに、二条家には男児がいないのです」
「あー…え?でもそれって愛様の実家も同じだろ?」
「政宗様も当初は婿養子の予定でした。しかし輝宗様や遠藤様が断固反対され、政宗様と愛様の間に生まれた子を田村の養子に出すことになっています。伊達の跡継ぎはその後です。それにこの先、政宗様も側室を取らないとも限りませんから」
つらつらと言葉を紡ぐ定行。疑問は殆どなくなった。定行は蒼丸の考えを見透かしているかの様に色々なことを教えてくれる。丸で、全て見てきた様に正確に。
「…定行って何でも知ってるよね」
「?そうですか?」
定行はキョトンと蒼丸を見詰めた。蒼丸は迷うことなく頷いた。その様子に定行は微笑む。
「そんなことないですよ。私が知っているのは一部です」
「えー?」
嘘をつけ、とでも言いたげな蒼丸を見て、定行は笑う。
「……何だか、こうやって話していると前を思い出します」
「前?」
「まだ蒼丸様が、哉人様の子だった時を」
蒼丸の中で時が止まった。
優しかった養父、哉人。もう死んで大分経つが、彼はまだ哉人を大切な父だと思っている。
「…でも、今は今で良いと思ってる」
「…蒼丸様」
「僕に出来ることなら、何だってする」
ご立派になられた。定行はしみじみ感じる。自分の手を必要としなくなり、少し寂しくもあるが。
磨き終わった刀を鞘に仕舞い、もとの置き場に戻したとき、音もなく襖が開きある人物が現れた。
「蒼丸様」
「!最奥様」
「綾様!」
それぞれの反応を示す蒼丸と定行。綾は跪き、用件を話し始める。
「片倉様がお呼びです。ご婚約のことで御話があると」
「は、はい!」
蒼丸は急いで立ち上がり部屋を後にし、廊下へ消えた。
「…何だか、強くなりましたね」
「…はい」
「…良いのですか、木野殿」
「良いも何も…私は傅役として、蒼丸様に強くあって欲しいと切に願っていますから」
城内のどこからか舞い込んだ風に、定行の赤茶色の髪が揺れた。
___
「片倉様」
小十郎の部屋の前、方膝をついた蒼丸が小十郎に話し掛ける。
「お召しにより、蒼丸参りました」
「お入りなさい」
小十郎のよく通る声が耳に伝わり、蒼丸は静かに襖を開く。
そこには二条和典と政宗もいた。
「二条様が婚姻の話を承諾してくださいました。今年中に、二条家へ参りなさい」
「…っ!は、はい!!」
本当に嫁が出来るんだ、と蒼丸の心が興奮と期待に包まれる。
婿養子、と言うことになれば伊達家には居られない。だが彼からすれば役に立てるなら何でも良かったのだ。
「宜しくな、婿殿」
「宜しくお願い致します、御父上」
深々と互いに頭を下げる。だがこの話がなくなるのは、直ぐの話だった——。
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大森城——。
「だからさぁ、分かってるんですよ俺は。ただやっぱり落ち着いて貰わないと」
「落ち着くなど死んでも御免じゃ!」
「うっせぇんですよ自室戻ってください殴りますよ!?」
「知らぬわ馬鹿息子ォォォォォォォ!!!」
「逃げんな馬鹿母上ェェェェェェェ!!!」
成実とおいかけっこをする年配の女性がいた。家臣が微笑ましそうに見詰める。
女性、名を和姫と云う。