複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【四章】 ( No.382 )
日時: 2013/04/30 17:34
名前: ナル姫 (ID: 9IMgnv4t)  

「別に二条家と仲良くした所で得はない」

背を向けながら主は言葉を紡ぐ。それを聞いていた少年は目をキョトンとさせる。主の右に控える男性はそうですね、なんて相づちを打つ。

「じゃあどうして…」

問い掛けるのは、冒頭の言葉に繋がる問いを発した……二条家と同盟する得は何か、と興味のために訊いた少年だ。

「向こうが要求したことだしな」

相変わらず言葉は少ないが、思えば政宗が蒼丸の問いにまともに答えたのはこれが割りと初めてかもしれない。

「断っては、伯父上に何を言われるかわかったもんじゃない」
「最上様…ですか?」
「…最上は二条と仲良くしたがっている」

成程、と蒼丸は思った。つまり二条家との同盟を断れば最上との仲はさらに悪化し、戦に繋がる可能性がある。だが受け入れれば最上の機嫌もとれるし、何より関係が悪化した場合の仲介役になってくれるのだ。直接的に得することはなくても、間接的に『助かる』ことはある。
だが納得した直後、新たに疑問が湧く。

「二条家と最上家はお互い仲良くしたいのですか?」
「恐らくな」
「では何故直接最上と同盟を組まないのでしょう?」

ピタリ、と政宗の動きが止まる。同時に小十郎も止まった。政宗は口に手を当て考える。そう言えばそうだ。最上と手を組みたいなら直接組めばいい。最上だって男子が一人しかいない訳ではないから婿養子くらい出せる。万一出せないとしても側室として貰って、なした子供を二条に送ればいい話だ。

(何か…何かが絡んでいる…)

何が?
考えたところで何か嫌な予感を覚えるが、その正体を掴めない。不安と焦燥に駆られていると、漆黒の髪の少年の遠慮がちな声が聞こえてきた。

「あの…?」

答えに迷っていると、隣にいた小十郎が口を開いた。

「伊達の方が勢力が大きいからですよ」

頭のいい蒼丸が納得できる言い訳ではない。何かある、とは解っていたのだが、小十郎に逆らう気にはなれなかったため頷いておいた。

「政宗様、衣装合わせは小十郎がやっておきますれば」
「あ、あぁ…任せる」

政宗はそれだけ言い残し、後は踵を返して自室に戻った。政宗の後ろ姿が見えなくなったところで、蒼丸が小十郎に声を掛ける。

「…片倉様」
「さて、誰の策謀なのやら」
「…片倉様、分かってるんじゃないですか?」
「さぁ」

蒼丸に具体的な人物は特定できていない。それでも、誰か……伊達に仇をなす人が裏で糸を引いているのは分かった。

(一体…誰が…)
「さ、それは兎に角、衣装合わせしましょうか」

再び歩き出した小十郎に蒼丸はハッとして小走りで着いていった。


___



「成程、確かにおかしいですわな」

凉影が独特の口調で言葉を紡ぐ。綾が頷いた。するとそこで、尚継が口を出した。

「政宗様、こんな噂があるのですが…」
「何じゃ」
「二条家の家臣の過半数は、最上に媚びている、と…」

流石に驚いたのか、政宗は隻眼を見開き、はぁ!?と声を荒らげた。

「それが本当だとすると、二条家の狙いは…」

まず、伊達と繋がり油断させる。だが裏で最上と繋がり、機会が来たら伊達を内側から潰す。それが駄目なら、適当な所で伊達と離れ蒼丸を人質に、そして戦を仕掛け外から潰す。

「…何故、戦をするのに彼奴を人質にする?人質は普通、戦を仕掛けてこないように用意するものだろうが」
「そこで絡んでくるのが、定行殿です」
「成程、定行殿は蒼丸様が婿養子になれば二条家へ行きますね。それで蒼丸様を人質にされたら二条の言うことを聞くしかない…」
「定行はんは伊達一の策略家…三人よれば文殊の知恵とは言いますが…儂と尚継はんと片倉様…三人いても定行はんの方が上やろな」

政宗もそれで合致がいった。噂とは言え、ここまで完璧な推測をされると……そして、最上から伊達へこの話を持ってきたのは、恐らく——。