複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【四章】 ( No.383 )
- 日時: 2013/05/08 20:17
- 名前: ナル姫 (ID: 7foclzLM)
嫌われている……なんて、とっくの昔から知っていた。邪魔者だ、なんてずっと前から分かっていた。結局自分は要らない人間なのだと思い知るのに、受け入れるのに、大した時間は要らなかった。
『ねぇ貴方?家督は竺に継がせて、梵天は婿養子に出しましょう』
結婚と言う二文字で思い出す記憶は、良い思い出と言えるものでは到底ない。
あの日、どうすれば良いのか分からないまま大人たちは話を進め、幼い彼の心を置き去りにした。
何とか一族に留まることが出来た彼は嫁を貰い、彼女とは仲良くやっているものの、やはり結婚と聞いてあまりいい気持ちはしないのだが……それは、彼の弟でも同じことになりそうだ。
「えぇっ義様が!?」
心底驚いたという風に、成実はポカンと口を開け目を見開いた。それに対し驚きすぎだろ、と呆れ顔な政宗。
昼間の大森城は賑やかで、先程も成実とその母、和姫との間で壮絶な鬼ごっこが繰り広げられていた。
「じゃぁ婚約は無しかぁ」
「そう言うことじゃな…あぁ面倒臭い」
はあ、と大きく息を吐き出すと、成実が苦笑いを返した。まぁまぁ、何て宥めながら。
「で、義様はどうするんだ?」
「どうもこうも…何もせんわ。可能性が高いとはいえ、絶対ではない。事実を確認次第、無しにするか結婚させるか…あと、もし事実なら母上と伯父上…それと二条殿には適当に断る言い訳を作る。下手に刺激してもいかんしな」
一度受けた結婚の話だ。中々断るのは難しいだろうが、こんなときのためにいるのが小十郎や尚継だ。相手にしたり一緒にいたりすると限り無く迷惑で厄介な輩だが、いざというとき役に立つから手離せない。
「…蒼には?」
「言ってない…まだ」
調べて、噂が確実なら話すつもりなのだろう。
(…結婚に、良い印象なんか持ってねぇんだろうに)
「了解…俺はどうすれば良い?」
「取り敢えずは…何も。あぁでも敢えて言うなら…」
政宗は一度目を閉じ、再び開いた。細く、何かを見透かすように。それはまさに、侍の目だった。
「黒脛巾(クロハバキ:伊達家に仕える隠密一派、忍の集団)を動かせ」
蒼味がかる黒い瞳が揺れる。黒脛巾を動かしてまで相手を調べるということは……大分本気のようだ。そりゃあそうだ。一歩間違えれば潰されるところだったのだから。
「…ちなみに聞くけど、もしだぜ?もし、本当に蒼が人質になって定行が相手軍についたら……勝算は?」
「……勝算、か…
……ない」
あまりにもあっさりとした、諦めの溜息と共に吐き出された言葉は予想していた返事だった。
成実は猛将、尚継は話術で人を惑わし、凉影は良い策を作り、小十郎はそれを完璧に近づける。だが定行はそれさえも跳ね返す程の策を立てる。それが木野家の良くできた生き残りだと言うことは、政宗も成実もよく知っている。
「…じゃあ出来るだけ早く、確実にってことか…」
「…そうなるな」
汗が伝っているのが分かった。黒脛巾をより効率よく、早く、尚且つ正確に動かせとは……大層な役を任せる。
「自信がないなら他を当たるが?」
それは、成実を気遣った物ではないとは、一瞬で理解した。但しそれは政宗が成実に厳しく当たるからなんて理由ではなくて、成実を信頼しているからこそ、挑発的な口調で、皮肉に。
たったこれだけで乗ってしまうのだから、彼も大概まだ子供なのだろう。
ニヤリと口角をあげ、自分より背の低い主の顔を見る。勿論言う言葉は決まっていた。
「やってやろうじゃねぇか!」
答えれば、目の前の主も満足気に口許を緩ませていた。
「頼んだぞ」
「任せとけって」
……子供の時も、こうやってお互いを信頼しあったことを覚えている。確認し合うときには、必ずこうするんだ。
拳を前に突き出して、軽くぶつける。
コツン、と音がすれば確認終了。
信じあえる。絶対に。