複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【四章】 ( No.387 )
日時: 2013/05/26 19:07
名前: ナル姫 (ID: ajFjTcav)  

「黒脛巾の報告によると、どっちとも取りがたいけどやっぱり本当かもって」
「……そうか」
「…言うのか」
「それしかあるまい」

成実は黒脛巾の報告を聞き、それを政宗に伝えた。結果として、噂は事実らしいと言うことで捉えられた。これを全て蒼丸に伝えなければいけない事と、結婚を破棄すること、二条家の人間を言及すること、そして——これを企てた、政宗の実母……お東を問い詰めなければいけないと考えると、目が眩みそうになる。

「…はぁぁ…」
「んな…溜息深いだろ」

苦笑しながらいったが、仕方ないことだと考え、すぐ顔が曇る。子より親の時代……政宗の立場はお東より下だ。そうでなくても政宗は気性の激しいお東に怯えている。

「…で、問い詰めるのはどうする?」
「どう、するって…」
「お前はしたくねぇだろ」
「っ…だが…」

小十郎を含め、家臣はお東に逆らえない。逆らえるのは、実の息子三人だけなのだ。

(…母上…)


___



「そ、それで…お話とは…」

政宗の前で体をカチカチに固めている蒼丸に、小十郎が溜息を漏らしながら言葉を紡ぎ出す。

「…婚約が、破棄されました」
「…え…」

瞬間、蒼丸の目が見開かれた。予想外の話だったのだろう。訳がわからないと言いたげな視線が政宗に刺さる。政宗は蒼丸を直視できずに目をそらした。

「ど、どうしてですか?」
「陰謀が隠されていました。詳しく話す気はありませんが、この婚約は非常に伊達家に不利、いえ…嵌められます」
「わ、罠ってことですか!?」
「簡単に言えば、そうなります。さらにそれを企てたのは…貴方の実母、お東様です」
「!!」

サッと蒼丸の顔が青ざめた。どうして実母が、と更に脳内が混乱に陥れられる。

「ど、どういう…」
「詳しく話さんと言っただろう」

ムスッとした顔で政宗は蒼丸を睨んだ。鋭い視線に蒼丸が肩を竦める。

「わ、分かりました…」
「それで良い」

政宗は立ち上がり、小十郎を連れて部屋から出た。蒼丸は、こっそり盗み見た政宗の顔がこれ以上無いほど切なそうに歪んでいたのを——。普段なら、それで終わりの筈だった。

「あ、あの、政宗様!」
「…何じゃ」
「あの…何か、えっと…大丈夫ですか?」
「……は?」

政宗の隻眼が不快に細められた。

「何じゃ急に…」
「えっと…何となく…」
「…」

政宗は下を向いて拳を強く握る。軈て、無気力そうに開き、また握った。そして何か、覚悟を決めたように蒼丸をまっすぐ見た。

「ついてこい」
「え」
「政宗様…良いのですか?」
「…良い」

目をパチクリさせている蒼丸を見据え、彼は確かに言ったのだ。

「…力を貸してくれないか」


___



「よし、これから東館に突入するぞ!」
「は、はい!」
「突入ってお前…別の言い方あるじゃろ」
「じゃあ突撃」
「同じだ阿呆」

現在、西舘と東館を繋ぐ通路に成実と蒼丸、そして政宗が立っていた。政宗は呆れ顔だが、一応成実の言葉に返事はしている。

「えっと…どうすれば良いんですか?」
「んーっとな、今から義姫様の部屋いくんだけどな、それでまぁ、あの人を言及しなくちゃいかなくて」
「婚約の話、ですか?でも僕、その話詳しく聞いてなくて…」

言いながら蒼丸はチラッと政宗を見た。政宗は目を瞑っていて、気付いたのか気付かなかったのか判別はできなかったが。

「別に心配しなくて良いぞ?その辺は俺が何とかするから。それより心配なのはな」
「?」

成実の目付きが急に鋭くなった。そして低い、真剣さを含んだ声で言う。

「義姫様に呑まれるな」