複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票!】 ( No.400 )
日時: 2013/06/09 19:37
名前: ナル姫 (ID: 9IMgnv4t)  

「じゃ、行ってくるな」
「あぁ、頼む」

政宗と成実は拳を軽くぶつけ、成実と蒼丸は東館へ続く廊下を、政宗は凉影や尚継、綾や佳孝がいるところへ足を運んだ。


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廊下を渡っている最中、二人の間には会話と言うものがなかった。時折成実が何かを呟き、固唾を飲み込む音が嫌に大きく響いたが、呟いた内容は聞こえない、唾を飲む上司に掛ける言葉も分からない。大丈夫、何て言ってみたものの、今これだけ緊迫していては、母に会ったときには、きっと——……。

「……お?蒼?」

名を呼ばれハッとすると、成実が心配そうにこちらを見つめていた。いつの間にか廊下は渡り終わっていたようだ。

「はっはい!?」
「着いたぞ、東館」

——実母の住まう屋敷に、少年は初めてその足を踏み入れた。
見た目の造りは西館と何か違うと言うこともなく、至って普通の屋敷だった。ただ、その中に蔓延る圧倒的な圧力——それが二人の心を絞めた。そしてその重圧こそ、伊達家にて巨大な権力を持つ鬼姫の放つ物だと、考えなくたって分かるほどその圧力は重かったのだ。

「あんまりキョロキョロすんなよ」
「は、はい…」
「…一応言っとく。梵天丸はお前に協力を頼んだ。それは、本来俺の立場ではお東様に歯向かえないからだ。だが実子であるお前は違う。お前の立場は俺より上だ。俺だけじゃ言及に失敗すると思って、梵天丸はお前に頼んだ」
「……」
「今、蒼は小姓だ。俺はお前の上司として、言及にお前を使う気でいる…だけどな」

成実は振り返らずに、少年の瞳を見ずに、足を止めずに続けた。

「自分の身が危ないと感じたら、すぐに逃げろ。俺の事は考えるな」

声から感じ取れるのは真剣さのみだった。いや、もっと色々な感情は実質的に含まれているが、主に感じられるのが真剣さだった。

「はい…」


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「そう言うわけで、言及してこい」

にっこりと作られた笑顔に、五人の従者は微妙な表情を浮かべた。

「…御自身で行く気はまるでないそうで」

横に控える小十郎の溜息。

「政宗、さ、ま…そう言わ…仰られましても、もし失敗したら…」
「だから」

政宗から殺気が滲み出る。佳孝は一瞬恐怖に肩をすくませた。

「失敗しない自信がある奴を探しているのだが?」

深くなった作り物の笑みは恐怖心しか植え付けない仮面だった。

「とは言われましても…私は取敢えず、自信がございません」

綾は軽く目を伏せた。

「ぼ、僕も…」
「あ、いや。お前に特に期待はしていない」
「……」
「まぁ言及やったら適役がいますやん」

ガックリと肩を落とす佳孝を他所に笑った凉影が、自身の隣に佇む青年に視線を向けた。政宗や小十郎を含む四人もその人物を見た。

「え…お、俺ですか!?」
「決まっとるやろ。伊達家一のわじゅつを持っとるし」
「い、和泉殿だって…」
「いやー儂より睦草はんの方が上やろ」

ヘラヘラとする凉影と珍しく取り乱す尚継。改めて、こいつ悪質だなと政宗は考えていたが……いやそれは今はどうでもいい。

「…尚継」
「は…はい…」
「頼んだ」
「え…えぇぇぇぇぇえぇ!?」
「二条がこちらに来るようには小十郎にやらせるからな」
「御自身でやらないのですね」

呆れたようにしつつも咎めたりせずに微笑まで浮かべている辺り、小十郎は政宗に甘い。政宗が幼い頃からの癖が根付いているのだろう。

「…う…頑張ります…」

諦めて命を受け入れた尚継は首を項垂れた。隣の凉影は爽やかすぎる悪質な笑みを浮かべていた。
どんな状況でも自分を保ち、確り前を見る家臣達に、政宗が救われたのは確かな事。


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一方、成実と蒼丸は東館の一番奥の部屋に辿り着いていた——。