複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票!】 ( No.408 )
- 日時: 2013/06/27 19:28
- 名前: ナル姫 (ID: 6xeOOcq6)
……今でも、自分にあれほどの行動力があったことには驚いている。あの時の記憶は殆ど無いが——ただ、自分の横で呆気にとられる上司の顔と、恐怖の混ざった顔をした母親の様子は、いやに脳に媚りついている。
途中、誰かが部屋に入ってきてから何故か気を失い、それからの記憶はない。次に目を覚ましたのは自室で、布団の上だった。
……どうしてここにいるんだろう。自分はいったい何をしたのだろう。あの時何が起こったのだろう。
「……う」
寝返りを打つと、思わず呻き声が漏れた。その時。
「あら、起きたの?」
聞こえた可愛らしい声に一気に目を冷まし、声のした方へ目線を向けた。ふっくらとした体型に藍色の混ざった黒い艶髪。
「…愛姫様?どうして…」
「あ、蒼、起きたのか」
蒼丸の声を遮って聞こえたのは成実の声。その声は少し元気ではあったが、笑顔はどことなくぎこちなさがある。
「いやー良かった。やっと起きたな」
「し、成実様?やっとって…」
「あぁ、もう何だかんだ半日寝てたから」
「えぇ!?」
立ち上がり障子を開ける。もう朝だった。
「あ、あの…一体何が…?」
「え、あぁ…」
___
半日前——。
「……テメェ……本当…本当に、いい加減にしろよ」
「あ…蒼…?」
蒼丸が顔をあげる。青み係る黒の瞳の奥は怒りで静かに燃え、目尻には涙が浮かんでいた。
「あの人はっ…政宗様はずっとアンタの事待ってる!何年も何年もずっと!言葉に出てなくても分かるんだよ!!何で会いに行かないんだよ!?何で想いを無視するんだよぉ!?政宗様は隻眼だけど、普通の人からしてみれば醜いのかもしれないけど、その欲に溺れた心の方が、隻眼なんかよりもずっと醜い!!」
蒼丸の両目から大粒の涙が溢れ出す。
そうだ。
自分は知らないうちに生家から養子に出され、それを誰にも知らされずに十二年も生きてきた。
不幸なんだと思った。
でも、自分より不幸な人がいた。それが……その模範のような存在が、こんなに近くにいた事に、少年はやっと気が付いた。
「こっ…子供の癖に何を!!」
逆上したお東が遂に立ち上がる。醜いと言う単語に余程自尊心を傷つけられたのか、顔は耳まで赤くなり、握られた拳はぷるぷると震えている。——不味い、と瞬間的に感じた成実が蒼丸を下がらせようとするより一瞬早く、蒼丸は何者かによって気を失った。
「!?蒼!?」
倒れた蒼丸を抱き抱えるより先に目に入ったのは、ここに居る筈のない——現在伊達家の女性ではお東に次いで権力の強い人だった。その人物は何処か誇らしそうな顔で笑った。
「…ふふ、作戦成功、ですわ」
「め…愛姫様!?何でここに!?」
「あらまぁ、いつものおちゃらけた口調は何処へ行ってしまわれたのやら、私を愛姫様と呼ぶなど久しゅうございますわね、成実様?」
「あ…」
蒼丸を抱き抱えた成実を見下ろし微笑んだその表情は確かに柔らかかったが、その裏には明らかに何らかの圧力があった。
愛はお東に向き直り、その瞳を見据える。明らかにこの図は怖い。今すぐにでも逃げ出したいが、もしお東が刃物をもって愛に斬りかかったら……と考えると、とても退ける状態ではない。
「そうそう、佳孝君に政宗様のご様子がおかしい理由を問い詰めましたら、あっさり…でもないですが吐いて下さいましたわよ?」
あの阿呆、と凄く大きな溜息が出そうだったが我慢した。きっとこの瞬間は彼史上一番の我慢になるだろう。
「…さて、お義母様?」
愛は口角を緩やかに上げ、お東に負けず劣らぬ圧力のある笑顔で話し始めた。