複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票】 ( No.412 )
- 日時: 2013/07/19 13:34
- 名前: ナル姫 (ID: DqYpyOBj)
それが作り笑いなのか、それとも本当に笑っているのかは誰にも区別が付かなかった。だが傍に控えている成実の苦々しい表情を見ると、彼の笑顔は作り物であることが何となく推測できる。
本当の笑顔、という可能性が考えられたのは、目の前の大名が情けなく頭を下げていることと、輝宗が死んだことにより無くなっていた心の余裕がまた出てきたと言うこと等様々な理由が挙げられるが……作り笑いならそれも意味はない。
しかしまぁ作り笑いであっても、主はこの上無く余裕に満ち溢れ、愉しそうであった。
「無条件降伏」
にっこりと深い笑顔の仮面についた口から出てきたのは、聞く前から予想できていたものだった。笑顔だからだろうか、余計な圧力まで掛かっている気がするのは。
「だが二条、御主に悪意はない。旧領は半分ほど残そう」
「はっ!」
本来同等の関係である筈の二条を『二条殿』とは呼ばずに呼び捨てにする辺り、政宗は既に二条を伊達家家臣にするつもりのようだ。
「あとは服従の証として紅姫を寄越せ。それくらいにしてやろう」
「ひ…人質、と言うことでしょうか?」
「実質な」
「しかし私には紅しか子がおりません!紅は家を継ぐ為に教育を…」
「誰が、唯の人質などと言った?」
へ、と間抜けな声を出して和典は顔を上げた。
「あの娘は儂の部下に嫁がせる」
「なんと!」
「そいつと主の娘の間にできた最初の子を、二条にくれてやろう」
___
——翌日。
「…では僕の婚約話は結局無しですか」
「いや」
「……え?でも政宗様の部下に嫁ぐんですよね?紅姫様」
「え、だって…え?聞いてねぇ?」
成実の意外そうな表情を見て、蒼丸が固まる。更にその様子を見た成実が、聞いてないんだ、と言葉を漏らした。と、その後ろから現れた影。
「あ、成実さ…」
「ん?ぐっ!?」
其処には昨日、二条に婚約話を持ち出した政宗が立っており、成実の脇腹に蹴りを入れていた。
「な、何をする…突然…」
政宗は成実の頬をつねり、キッと睨んだ。そして小さな声で言う。
「余計なことを言ってないじゃろうな…?」
「い、言ってねぇです…」
「真か?」
「うん、本当に」
政宗は、二人のやり取りに目をぱちくりさせる蒼丸を見遣り、軽く頭を掻いた。
「まぁ…良いか、別に」
「へ?」
政宗は踵を返し歩き始めた。しどろもどろする蒼丸の横で、成実は嬉しそうな顔。そして蒼丸の手を取り、言う。
「彼奴、案外お前を早く認める気だ!」
「え…」
「ほら、行こうぜ!」
___
政宗の自室、主の前でカチコチに固まった蒼丸と、何処から話そうか悩んでいるのか、腕を組んで目を瞑る政宗。
「あー…まずはだな…定行を再び貴様の傅役に命じる」
「へ?な、何故ですか…?」
「それは後だ。晴千代の補佐は他の金田の家臣に任せる。……あ、あと…小十郎、その他の家臣にも了解は取った。…紅姫はお前がめとれ」
「いや、その、だから!何の話ですか!?」
「あぁもう鈍い奴が!察せ!」
つい大声を出した蒼丸。全く話が読めてない彼に痺れを切らしたのか、政宗もまた珍しく怒鳴った。
……別に、全く政宗が言っている言葉の意味とその先が見えなかったわけではない。ただ、行き着く先があまりに非現実過ぎたのだ。
「蒼、お前の回答を言ってみ?」
成実が優しく蒼丸を見る。蒼丸は戸惑い、下を向き、前を向き、躊躇して、また戸惑い——。
「……僕を…政宗様の家臣にすると言うのですか……?」
「何故そのくらいの事が簡単に思い付かぬ」
不機嫌そうな態度は、とてもこんな少年を家臣に取り立てようだなんてものではなかった。それでもこの青年は、少年の回答を遠回りに肯定した。