複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票】 ( No.414 )
- 日時: 2013/07/23 21:50
- 名前: ナル姫 (ID: zi/NirI0)
「良くこの部屋に辿り着い…何故居るのじゃ貴様」
蒼丸の姿を見た政宗が少し蒼丸を睨む。彼はにへらと苦笑いを残した。
「あぁいえ政宗様。この方が私を案内してくださったのです」
「…成程。まぁ…良い。どうせ今日中に紹介する予定だったしな。名乗れ、浜継」
「はい」
浜継は蒼丸に向き直る。
「伊達家家臣睦草家分家の嫡男、睦草浜継と申します」
「…あぁ!」
先程とは随分態度が違うなと思うより早く違う感情が思い浮かんだ。薄く笑顔を見せた浜継の目元。そうだ、尚継に目元が似ているのだ。
「睦草様のえっと…従弟って事ですか?」
——刹那、彼の顔がひきつった気がした。
「はい。所で貴殿は…」
「えっと、伊達家家臣に…なった?伊達蒼丸と申します」
「…なった?」
「はい、今さっき…」
「成程、宜しくお願いします、蒼——…蒼丸?」
「え?」
どこか混乱し始めた二人を前に、政宗は少し溜息を漏らした。
___
「うぅ…広い、米沢城…やっぱり小さい頃一度来て、人から場所を聞いただけじゃなぁ……えっと…?確かここを右…?…ってここもう三周くらいしてる気が……それにしても…
俺が仕える『蒼丸様』ってどんな方なんだろう…」
___
「…あの…本当に申し訳御座いません…」
先程から浜継と言う少年は蒼丸に謝りっぱなしだった。何も難しい理由ではない。知らなかったとはいえ、主に敬語を使わず気難しい顔をずっと向けていたのだから。
「気にしないで。僕は全然構わないから」
政宗によると、彼、睦草浜継こそ蒼丸の一人目の家臣である、と言うことだった。もう一人来るらしいが、如何せんこの城は広い。時間に遅れていると言うことはどこかで迷っているのだろうと推測がたった。
どんな人であるにせよ、この城に仕えている人で蒼丸が出会ったのはとある一人の侍女を除けば、皆一様に政宗への忠義心の強い人、良い人だ。新しい人もきっと良い人だろう、と蒼丸の心は踊る。
「さて、僕は定行に礼法を習わなくちゃ」
「定行…あぁ、木野様ですね」
他愛ない会話を交わしながら、主従の二人は蒼丸の部屋へと足を進めていた。
空からちょうど、雪が降り始めた十二月の下旬。
___
「冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。霜のいと白きもまたさらでもいと寒きに火など急ぎおこして炭もてわたるもいとつきずきし。…昼になりて……」
「昼になりてぬるくゆるびもてゆけば、火桶の火も白き灰がにちになりてわろし…ですよ」
部屋を探している最中、降り始めた雪を尻目に枕草子を暗唱していた青年は、突然聞こえた声に驚いて後ろに振り返った。見れば、緩やかに瞳を細める赤毛。
「探しましたよ、御林隆昌殿」
___
「お前は昔っから変わらんな。なんとかならんのか、その落ち込み癖」
呆れ顔の政宗の前で、シュンと肩を落とす青年。彼の名は隆昌。政宗の祖父、晴宗の代から伊達家に仕える御林家の嫡男である。政宗とは幼少期以来の再会であるが、当時より人の本質を見抜くのが巧かった政宗は数日共に過ごしただけで隆昌の落ち込み癖を見抜いていた。……尤も、隆昌の落ち込み癖が分かりやすいのも要因の一つだが。
「彼奴なら多分自室だろう。定行、御苦労だった。彼奴のところへ戻って良いぞ。と言うより礼法指南を頼む」
「はい」
「隆昌、お前は取敢えず定行についていって、お前の主の部屋を覚えよ」
「はい」
二人が頭を下げる。定行は教養もあるし人望もある。厳しいところは厳しくするし、きっと二人を上手く纏められるだろう——ここまで考えて、政宗は自分が何だかんだで弟の心配をしていることに気付き——ブンブンと振り払うように頭を振った。