複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票】 ( No.418 )
日時: 2013/07/27 10:15
名前: ナル姫 (ID: tBS4CIHc)  

「蒼丸様、定行です。新しい家臣を連れて参りました」

中にいる主は何も言わずに襖へ向かったようだ。余程急いだのだろう、滑って転んだような音と蒼丸の奇声、更に既に蒼丸のもとにいる浜継の慌てるような声が聞こえた。だが直ぐに襖は開き、少しだけ鼻と額を赤くした蒼丸が姿を見せた。後ろから浜継も覗いている。蒼丸は定行の後ろにいる人物を見ると、パアッと顔を輝かせた。

「初に御目にかかります、御林隆昌と申します。この度は蒼丸様の家臣とさせていただき、光栄でございます。精一杯お支え致しますので何卒」
「こちらこそ宜しく!あ、こっちがもう一人の家臣の浜継」

蒼丸が横に移動すると、浜継は頭を下げた。

「…で、定行はいつまで正座してんのさ」

蒼丸の声に定行は顔をあげ、目をぱちくりと瞬かせる。

「政宗様が言ってたけど、定行は二人の纏め役なんでしょ?二人より立場上でしょ?」

言われてやっと気付いたのか、あっと声を漏らしながら定行は立ち上がった。それに連動するように浜継は座る。
定行は改めて、高い位置から主の家臣を見た。蒼丸が幼い頃、蒼丸に付いていたのは小姓と乳母と自分だけだったのに、今は新しい『家臣』がいて、誇らしそうに胸を張っている。
——今、改めて自分は蒼丸に一番近い立場にいるはずなのに、すぐ成長してしまう主はどこか遠くへ行ってしまいそうで、自分を必要としなくなりそうで——それがどこまでも寂しい。けれど、やはり小さかった主の成長は嬉しいし、誇らしい。

「…定行…?」

立ち上がってから一言も言葉を発しない傅役が心配になったのか、蒼丸は彼の顔を正面から覗き込み、ぎょっと目を見開いた。

「え、ちょ、ちょっとどうしたの!?何で泣いてるの!?」

二人の家臣も突然の事に驚き、顔を見合わせたりするなどオロオロとしていた。
定行は掌で涙を拭い、少しだけ口角をあげた。

「いえ…ただ…」

寂しいとは、言える筈もない。

「ご立派になられたなぁと……思いまして……」

涙に濡れた彼の顔は、嬉しそうに微笑んでいた。定行は蒼丸の前に跪き、まだ幼さの残る顔を見詰めた。

「改めまして——おめでとう御座います、蒼丸様」


___



「総無事令?」
「はい。羽柴が九州の大名に向けて発令した物です」
「九州地方諸大名の私闘を禁ずる…早い話、九州で強大な勢力を誇る島津の討伐を正当化してるってだけですわ」

政宗は京にいる家臣からの連絡を見ながら綾と凉影の話を聞いていた。元々家柄の良い所に産まれた政宗にとって、いくら勢力が大きいからと言って諸大名の私闘を禁ずるなど、成り上がりの猿が命令するのはなんとも腹の立つ話だ。だが、そんな事に怒るよりも先に、不安が込み上げる。
——いずれ、この奥羽地方にもその令が出るのではないだろうか。

「…凉影」
「はい」
「もしこの奥羽に惣無事令が出るとすれば……その建前は?」
「…そうですな…そのときの状況にもよりますが……恐らく、北条討伐の正当化やと…」

北条家は鎌倉幕府執権の北条と区別され後北条と呼ばれる、北条早雲と祖とする名門である。かつて、同じく名門であった武田や今川と同盟を結んでおり、政宗の父、輝宗の時代には伊達家とも同盟関係にあった。現在、家督は五代目である氏直が継いでおり、先祖の功労のため小田原(現在の神奈川県南西部)を中心に強大な勢力を築いている。

「けれど、政宗様。もしもこの先、秀吉が惣無事令を出したときに政宗様が南奥州を制圧したとすると…秀吉の一番の敵は、貴方様やで」

ピン、と空気が張り積める。年が明け、彼奴の婚儀が終わったら、次待っているのは——。

「…戦だな。参戦が考えられるのは?」
「恐らく、畠山国王丸、石川昭光、白河義視、相馬盛胤、二階堂輝行、そして——蘆名義広と、佐竹義重」