複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票】 ( No.426 )
日時: 2013/07/30 20:51
名前: ナル姫 (ID: bwnA48pc)  

婚儀の前に紅は誕生日を迎えていたため、花婿十三歳、花嫁十五歳の婚儀となった。
夜も深まり、酔っ払った家臣達は早々に自分の館に戻り、米沢に残る家臣は数人となった。
夜、蒼丸と紅は政宗に呼ばれた。政宗の自室には、小十郎や成実、愛姫や光姫、他に沢山の家臣がいた。何故か、岩城常隆と三谷貴道と咲まで。勿論蒼丸の家臣もいる。定行も呼ばれたが、酷く泣いていたため、こんな顔は見せられないと言って来なかったそうだ。

「今日の婚儀を祝賀しよう。長い間疲れただろう、御苦労だったな」

政宗の表情は柔らかい。いつも蒼丸に向けるような不機嫌そうなものではなかった。紅姫がいるからだろうか、と考える。

「…紅姫」
「はい」

真っ直ぐに政宗を見詰めるその瞳は、綺麗に澄んだ色をしていた。

「お主はこいつの正室だが、実質は人質だ。だがまぁ、あまり気張るな。この城には気の良い奴しかいない」
「はい、ありがとうございます」

ゆっくりとお辞儀をし、再び顔をあげると、そこには優しい笑みが浮かんでいた。確りとしていて、真っ直ぐで、教養の高い姫君——お似合い、と言うよりは、嫁の方が強いのだろうが。

(…まぁ、良いか、どうでも)

……この先待っている戦で、自分は一杯一杯だろう。今さら兄ぶるのも烏滸おこがましいが、それでも。
さらさらと薄い茶色の髪が肩から流れ落ちる。皆が目を見開いた。
政宗が、家臣の嫁である姫に、頭を下げた。そして、言った。


「『弟』を——よろしく頼む。……結婚、おめでとう」


政宗が頭を上げてから数秒の静寂の後、皆の顔に満面の笑みが浮かんだ。

「蒼っ!!紅ちゃん!!おめでとう!!」
「おめでとうございます!!」
「おめでとうございます!」
「おめっとーさん、蒼君、紅ちゃん!」
「蒼丸殿、おめでとうございます!」
「おめでとうございます、蒼丸様!紅姫様!」
「蒼丸君、おめでとう!」
「良かったわね蒼丸君!紅ちゃん!」
「蒼丸、おめでとう!」

人の波に揉まれる二人。最初は放心していたが、段々と笑みが浮かび上がる。見ていた政宗も、薄く笑みを浮かべていたが、何かに気付いたように襖を見詰めると、そこへ歩いていき、襖を明け廊下に出た。開ける音に気付いた皆がその方向へ目を向けると、真っ暗な廊下で政宗と誰かの声。まぁ、聞きなれた声なのだが。

「お前は何をしておるのじゃ。はよ行け」
「うわ!?」

廊下から現れたのは未だに目が腫れている定行だった。続いて政宗が戻ってくる。定行の姿を見ると、蒼丸と紅に寄っていた家臣達が自然と道を開ける。定行はまだ泣きそうな目をしながら、蒼丸の前に正座した。

「…蒼丸様っ…おめでとう……ございますっ…」

再びボロボロと流れ始めた大粒の涙に、皆は笑い出した。式でも泣いていたのにまだ泣けるのか、なんて言いながら。

「あー…最高の式だな」

常隆が笑いすぎて出てきた涙を拭う。

「さて…土産話を始めようか。なぁ貴道」
「はい」
「政宗、二人と向き合ってくれ」
「?あぁ…」

政宗の後ろに咲と貴道が座る。政宗は言われた通り、二人と向き合った。咲が口を開く。

「家族が出来ました」
「?」

咲は続ける。

「不思議な感覚です。この中に、生まれてくる子供がいるというのは…」

咲は自分の下腹部を擦った。皆が意味を理解した中、蒼丸が言葉を溢す。

「…早くないですか?」
「そう?」

咲は満面の笑みを彼に返す。

「言いたいことは分かったが…自分の口でな」
「はい…三谷咲、この度貴道様との子を身籠りましてございます」

新しい仲間に、新しい家族——今の東北は戦国時代の真っ只中なのに、と思いつつも、政宗はこの場所の心地よさに、今だけ、少しだけ、と言い訳しながら甘えていた。