複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票】 ( No.438 )
- 日時: 2013/08/06 11:36
- 名前: ナル姫 (ID: bwnA48pc)
「…金兄、伊達って…?」
「…俺の記憶の限りでは、数年前まで小大名だった、伊達政宗と言う若者が統率する一族だ」
コソコソと耳打ちし合うが、少しだけ音は漏れている。政宗は漏れた音を無表情で聞いていた。
「見た感じだと…この中に当主っていなさそう…?」
「…一番前にいる眼帯の小さい奴は多分違うだろう…いないんじゃないか?」
チャキ、と金属が擦れる音。
「…良い。体格からしてとても当主に見えないのは分かっている」
政宗は、片目であることは構わなかった。罵られるのも馴れているし、こればっかりは仕方がない事だと割り切っている。だが体格は別だ。引き隠っていたと言っても過言ではないほど外に出なかった幼少期。父親が小柄である事はあっても、あの時期もっと外で遊んでよく食べていればと幼少期の自身を恨むほど、彼は体格の事を気にしている。
——それを今、敵国の見ず知らずの兄弟に目の前で指摘された。
「どうやら…礼儀と言うものを貴様らは知らぬ様じゃな…だが」
すらり、と光を受けて美しく輝く刃がその姿を現した。そして刃の影となる青年の顔は、口だけ優しく微笑んでいた。
「敵大将を、その眼前で貶すと言う…勇気だけは誉めてやろう」
「え…?」
漸く青年の言の葉の意味を理解した二人の断末魔が少しの間響いたのは言うまでもない。
___
定行と綾に抑えられ漸く収まったが、白髪の兄弟の目の前にいる青年は未だ立腹していた。
「取り合えず、何故お前達がここにいるのか聞かせて貰おうか」
「最初から?えー?長くなりますよ?」
「話せ」
もはや作り笑いすら億劫なのか、真顔のまま言葉は発せられた。
「…風迅一族は、どうやら先祖に白い髪を持つ人間がいたらしいのです。ですがその人は良いことをしていない…と言いますか…」
「早い話、その時代…鎌倉の時代に、格下げ喰らったんですよ」
白金に続いて、白銀が笑いながら話す。祖先を笑うな、と言いたかったが生憎そんな気力は残っていない、誰にも。
「…で?」
「それからと言うもの、この一族に生まれた白髪の人間は不吉とされ、あまり良い待遇を受けませんでした。ですがその鎌倉で格を下げられた人の他に、白髪で悪いことをした人はいなかったのです。その為、少しの間白髪でも不吉とは言われない時期もありました。ですが立て続けに我等兄弟が生まれ…丁度その頃、蘆名家でちょっとした内乱が起きたのです」
「それで俺達は不吉の印だって言われて、蔑ろにされたんですよ。で、ある時、近所の武家から『養子が二人欲しい』って要望が来て、俺達が出されたんです」
「二人もか?」
「はい。理由は知りませんけどね」
「その時我等は五つか六つくらいでした」
「その家の名は?」
「河原、と言うところです」
「!」
政宗の顔と定行の顔が一瞬ハッとした。定行の顔からは血の気が失せている。小十郎は眉間に皺を寄せ、定行を一瞥した。政宗は平常心を装う。どうしたのか分からない綾や蒼丸、浜継に隆昌は不思議そうにしていた。
「…定行、下がっていろ」
「え…しかし」
「下がれ。この部屋から出ろ。盗み聞きは許さぬ」
定行は戸惑ったように政宗の背を見詰め、軈て目を伏せ、一礼して部屋から出た。
「…分かった。それからその河原家に子が生まれ、一度伊達家配下についた河原はその領地内でお前ら二人を捨てた……そんなところか?そして河原は再び蘆名配下となった」
「は、はい、その通りです!」
見透かされたのに動揺したのか、少々興奮気味で白銀が答えた。
「だがどうやって城内に…」
「えっと…ただ空腹で…何か食料がほしくて…城に入れば良いんだって感じで門番を倒してしまいました」
「……」
深く深く溜息をついた政宗の後ろで、小十郎が何か言いたげな顔をしていた。