複雑・ファジー小説
- Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票】 ( No.439 )
- 日時: 2013/08/08 10:02
- 名前: ナル姫 (ID: sA8n45UA)
(…河原…河原…景就…)
定行は縁側で一人、とある人物の名を脳内で繰り返していた。彼が、一生許さないであろうその名前を。
(彼奴さえ…彼奴さえいなければ、私は…)
「定行」
「!…あ…片倉様…」
定行は急いで立ち上がろうとしたが、小十郎が手で制した。
「あの二人は、様子見になりましたよ」
「えっ…」
「蒼丸が、二人を家臣にしたいと…二人に同情して。…優しい子ですね」
「政宗様は…」
「どこの馬の骨かも分からない奴を家臣にする気など毛頭ない、と」
「では…」
「…私が言ったのです…様子くらい見ましょうと」
定行は小十郎から目を反らし、外を見つめた。雪は止んでいたが、薄暗い雲が空を覆っていた。
「…片倉様も、同情したんですか?」
「…そうですねぇ……そうかもしれません」
沈黙が訪れた。定行の瞳は、何を思っているのかが丸で読み取れない。
「…意見を言ったって良いのですよ?定行の意見なら…」
「良いんです」
定行は小十郎の瞳を見つめ、寂しそうに笑った。
「…あの二人は、養子ってだけで何も関係はありません…それに
…私は従者ですから」
___
「定行!」
「蒼丸様…」
「か、片倉様から聞いたよね?僕が家臣にしようって言ったって…」
「えぇ」
普通に答えると、蒼丸はしゅんと肩を落とした。定行は目をぱちくりとさせていたが、落ち込んだ理由は分かっている。
「…ごめんね。定行の様子が可笑しいの分かってたのに、僕つい…」
自分から言い出したことに、偉くなったなぁなんて思いつつ、定行は微笑んだ。まだ哉人が生きていた頃、厨に隠れているのが見つかって、渋々と自分に従った頃とは全く違う。
「蒼丸様」
「?」
「情けは人の為ならずと言います」
「…他人に優しくするなって事?」
「いえ、逆です。人にしてあげた優しさは、いつか巡り巡って、自分に帰ってくるんです。だから、いつも人には親切にしてあげよう…という意味です」
「……」
「蒼丸様が二人にしてあげた優しさは、いつか貴方に帰ってきますよ。間違ってなんかいません」
最初、キョトンとしていたが、そのうち笑顔になって少年は頷いた。
___
「…政宗様」
「……」
「あの二人は関係ないでしょう」
「…小十郎らしくないな」
政宗達の住む屋敷に帰る途中、二人を縛っている縄を持つ綾と、件の兄弟には聞こえない声で小十郎と政宗が話していた。
後方では白銀が綾をふざけ半分に口説き、それを止めさせようとした白金が白銀に蹴りを入れようとして足首を捻り、それを見た白銀が大爆笑、そして綾に殴られると言う事を繰り返している。
「定行は二人に見覚えがありませんでした」
「…恐らく、河原が伊達に…いや、木野に付いて直ぐ、彼奴等は捨てられた。そして、あれがあって…」
「河原は蘆名へ戻った…二人を置いて」
政宗は後方で馬鹿なことを続けている三人——元凶は一人だが——を見た。白髪の兄弟を見て、目を細める。
「…見放されると言う意味では…同じだな」
___
「ここが貴様等の部屋だ」
政宗が案内したのは、四畳半程度しかない座敷牢だった。身長の高い二人には少々狭いが、間接的とは言え蘆名の家臣が生家だ。当然の待遇だろう。
「せ…狭いですね」
わざとではない、当然の感想を口にしてしまう白銀。再び額に青筋が浮かんだ。
「悪かったな…儂はこの通りの体格だからでかいやつの感覚など知らんのでなっ!!」
パァンッと勢い良く襖が閉められ、兄弟は困ったように顔を見合わせた。
「様子見って…俺達どうすれば…」
「…まぁ、大人しくしてれば何もないだろう」
「…そっか」