複雑・ファジー小説

Re: 僕と家族と愛情と【人気キャラ投票】 ( No.446 )
日時: 2013/08/15 17:23
名前: ナル姫 (ID: cZfgr/oz)  

政宗から初陣宣言が出された約十日後、蒼丸は初めて軍議に参加した。いつも笑っている人も政宗の話を真剣に聞き、緊張の糸が張り詰めていた。
蒼丸の鎧は藍色で、小さく受け月の前立てが付いていた。政宗が自分を認めてくれているのが見えて、それは何処までも嬉しい。婚儀の時も一度彼は蒼丸を『弟』と言ったが、それがいざ目に見える形となって現れると、やっと実感できるようになったのだ。

「——以上だ。もう一度重要箇所を確認する。一番槍は最奥綾兼(アヤカネ:綾の父)、二百五十。特攻隊は睦草伊継(コレツグ:尚継の父で、浜継の伯父)、三百。殿は負けたら決めるが…取敢えず、竹葉幸孝(ユキタカ:佳孝の父)。本拠地は本宮、岩角、小浜、この三つの城だ。明日にでもここは出る。そして本宮に入り、三月になったら本宮を出て安達太良川を渡って南方の観音堂山に布陣する」
「はっ!!」

全員の顔が緊張と不安と恐怖に包まれていた。仕方もないことだ。今回の戦は、伊達が圧倒的に不利なのだから。

「…最後に、言わせてもらう」

言いながら政宗は立ち上がる。全員の顔を見渡し、息を吸い込んだ。

「佐竹が同盟国…我が正室の愛の実家、田村に攻め入ったことで、今回の戦はついに避けられないものとなった。敵は三万、それに比べ此方は七千。明らかに不利な戦であることは百も承知している。だが、この戦は伊達毛の明暗を決める戦だ。勝たねばならない」

静まる空間の中、政宗の声だけが響く。視線は全て、政宗に注がれていた。

「…俺は弱い」

ふと、政宗に向けられる視線が、真剣なものから驚いたものに変わる。政宗が自分を『俺』と言うのは、親しい人の前だけだ。こんな場で使うことはない。政宗は家臣の驚きの目を無視して話を続けた。

「普通よりずっと体が小さいし、手足も細い、筋肉だって中々つかない。組手も剣術も、策略だって、ここにいる誰よりも出来る訳ではない。成実や小十郎、沢山の家臣…お前達に頼るしか出来ない。一人では何も出来ない」

政宗は一度目を伏せ、再びその鋭い光を放つ隻眼を上げる。

「殿だとか、一番槍だとか…お前達に偉そうに命令して、策を立てろと言って…お前達がうんざりしていても仕方ない。だが俺は、父上からお前逹を託された!俺には、お前逹の命を守る義務がある!それに、先にも言ったが、俺はお前達がいないと何も出来ない!お前達がいたからここでこうしていられる!…この戦で死ぬ者が、ここに沢山いるだろう。もしかしたら、俺だって死ぬかもしれない」

瞬間、皆がざわつき始めた。演技が悪い、そんなことは止めてください、等と沢山の声が飛び交う。

「俺は!!」

遮るように政宗は叫ぶ。再び部屋は静まった。

「俺は弱いから、お前逹一人一人の命を守る保証なんかできない!…俺の言葉を聞くのがこれで最後になる奴もいるだろう。命令するだけして、偉そうな態度で、その癖弱いが——当主として、これだけは言わせてくれ…最後の命令だ」

ス、ともう一度大きく息を吸い込む。

「何も出来ない俺を…絶対、置いていくな。

……生きろ!!」

どん、と心臓が射られたような感覚。政宗の悲痛な思いは、全員の心を突き動かし、戦をしたくない、と言う思いから、絶対に生きようと言う志に変えてしまった。ワッと拍手喝采が起こる。

「…立派な当主だよ」

苦笑しながら呟いた成実。そして何かを思い出したように目を開き、政宗の袴を引く。政宗の頭上に疑問符が浮くが、直ぐに思い出したのか、座った。

「蒼!」

成実が蒼丸を呼ぶと、蒼丸は戸惑いながら政宗の前に出た。政宗は側に置いてあった巻物を手に取る。

「お前の名は……」

パンッと開かれた巻物には、綺麗な字で『勇次郎政哉』と書いてあった。

伊達勇次郎政哉ユウジロウマサナリだ……今日からそう名乗れ」

——金田家が継ぐ、『哉』。
——政宗、政道と続いた、『政』。

——断る理由などない。

「はっ!!」